「1.5度」の気温上昇で2040年は地獄になる 経済的損失は54兆ドル規模に上る可能性も

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世界は1.5度上昇への中間地点をすでに通過した(写真:SeppFriedhuber/iStock)

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は10月8日に報告書を発行し、これまで考えられていたよりもさらに恐ろしい気候変動の影響を描き出した。報告書によると、それによるダメージを避けるには、「これまでに前例がないくらい」の規模とスピードで世界経済を転換する必要があるという。

IPCCは国連が招集した科学者らによる会議で、世界のリーダーらが指針とする報告書を作成している。今回の報告書では、早ければ2040年には、気候変動により食糧難や山火事が拡大し、サンゴ礁が大量に失われると記された。現在、世界に暮らす人々の多くが生存している期間内にこうしたことが起こると予測されたのだ。

1.5度の上昇でも深刻な被害が

過去のIPCC報告書の執筆者で、非営利団体クライメイト・アナリティクスの物理学者であるビル・ヘアは、この報告書について「大きなショックで、とても懸念される内容だ」と話した。「数年前には、このような状況は認識されていなかった」という。今回の報告書は、2015年のパリ協定において委託された最初の報告書となる。

執筆者らによると、現在のペースで温室効果ガスが排出され続けると、2040年までに、工業化以前の水準より気温が1.5度上昇し、それによって海岸線が侵食され、干ばつや貧困が深刻化するという。これまでの研究では、気温が2度上昇した場合の損害の予測に重点が置かれていた。なぜなら、気候変動によって非常に深刻な影響が生じるのは、2度以上の上昇だと考えられていたからだ。

しかし今回の報告書では、それに至る前の1.5度の上昇でも、同様の深刻な状況が数多く生じることが示された。

執筆者らによると、気候変動による損害の規模は54兆ドルにも及ぶと予測され、深刻な損害を避けるためには、ここ数年のうちに世界経済を転換する必要があると言う。しかし、1.5度の上昇を避けられるほどの急速な変化を実現するのは、技術的には可能だが、政治的には難しいかもしれないと執筆者らは言う。

たとえば、二酸化炭素の排出には、2100年には1トン当たり2万7000ドルにもなるほどの重税、あるいは炭素価格が必要になるという。しかし、そのような政策は、世界最大の経済規模を持ち、中国に次いで排出量第2位のアメリカでは、おそらく政治的に不可能だろうと報告書は論じる。一方で、中国やEU、カリフォルニア州などを含む世界の国々の議会では、炭素価格制度が制定されている。

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