「1.5度」の気温上昇で2040年は地獄になる 経済的損失は54兆ドル規模に上る可能性も

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アメリカの代表団は外交的に綱渡りをしながら、ほかの180以上の国とともに、10月6日に報告書のサマリーを受諾した。国務省は声明で、「報告書を受諾したからといって、アメリカがその結論や中身を認めたというわけではない」と述べた。

受諾にあたって、国務省の代表団は難問に直面した。報告書の受諾を拒否すれば、アメリカが多くの国々と対立する形となり、権威ある科学を世界の舞台で拒否することになる。しかし、代表団は同時に、気候科学や気候政策を拒絶してきた大統領を代弁する立場でもある。

2度の上昇になれば損害は69兆ドルに

国務省は声明で、「アメリカは、国民にとってよりよい条件が認められない限り、最も早い機会にパリ協定から離脱する意向である」と述べた。

報告書では、気候変動によるコストも試算された。1.5度の気温上昇によるコストは54兆ドルと推測されるが、2度以上の上昇が続くと、そのコストは69兆ドルになるという。なお、このコストがどの程度の期間で生じてくるのかは明示されていない。

報告書では、各国政府が排出量削減の政策を制定できなかった場合の経済的な損失についても記している。それによると、アメリカでは気温が1度上昇するごとに、国内総生産(GDP)の約1.2%が失われる可能性があるという。

報告書によると、世界は1.5度上昇への中間地点をすでに通過したという。1850年代に、工業用に大量の石炭を燃やし始めて以降、人間の活動によって気温が約1度上昇したのだ。

加えて、アメリカやバングラデシュ、中国、エジプト、インド、インドネシア、日本、フィリピン、ベトナムでは、1.5度の上昇が起これば、2040年までに合計5000万人が沿岸部の浸水拡大の危険にさらされることになるという。

気温の上昇が2度になると、熱帯地方の人々が「急激に避難」するようになると報告書は予測する。インドの人間居住研究所のディレクターで、執筆メンバーのアロマー・レビは言う。「壁を築いて、1万人か2万人、あるいは100万人を助けることはできるかもしれないが、1000万人は無理だろう」。

(執筆:Coral Davenport、翻訳:東方雅美)
© 2018 New York Times News Service

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