失明を乗り越え、パラリンピック目指す起業家 初瀬勇輔 ユニバーサルスタイル代表取締役

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障害者と健常者の「懸け橋」に

初瀬の紹介で就職が決まった土屋さんは、「内定のときのことは何も覚えていないほどうれしかった。初瀬さんは神様みたいな人」と振り返る。「土屋さんのおかげで僕自身も紹介業の喜びを知った」と初瀬もエールを送る。2人はともにリオデジャネイロパラリンピックを目指す。

障害者にとって企業への就職は狭き門だが、「障害者雇用にもっと積極的に取り組みたい」という考えを持っているのが、首都圏を地盤とする運送・倉庫業のNTSグループだ。同社の笠原史久専務取締役は、「障害を持つ人と一緒に働き、一緒に成長を喜び合うことで企業が変わっていく」ことを肌身で感じている。

NTSグループの笠原史久専務と

従業員が約800人の同グループでは約20人が障害者であり、そのうち半数が知的障害を持つ人たちだ。同社は当初、地元にある養護学校の教員からの要請で障害者を受け入れてきたが、現在は全社で積極的に採用に取り組むまでに進化している。

初瀬が担当した同グループに勤務する知的障害者の社員へのインタビューは、ビデオに収録され、東京都トラック協会での講演の際に上映された。初瀬自身もインタビューを通じて、障害者雇用のすばらしさをあらためて認識した。

「障害者雇用に熱心な会社の社員は、自分が障害を持ったとしても安心して働ける。障害をきっかけに企業を辞めざるをえなくなる人が後を絶たない中で、NTSグループのような前向きな企業の存在を、世の中に伝えていきたいですね」と初瀬は語る。これこそまさに、障害者雇用コンサルタントならではのミッションだ。

現在、初瀬の活躍のフィールドはさらに広がっている。今年7月初めには全国障害者スポーツ大会のボランティア研修を請け負った。延べ4日間に研修に参加したボランティアは1000人以上。初瀬にとってもこれまでにないスケールの仕事だった。

2020年には東京でパラリンピックが開催される。「それまでの7年間に障害者が活躍できる場作りをお手伝いしたい」と初瀬は語る。障害者と健常者の「懸け橋」としての初瀬の役割は、ますます大きくなっている。

(撮影:吉野純治、梅谷修司)

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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