「実家から逃げるための結婚」の意外なその後 36歳女性、共依存の両親に翻弄されて…

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「母が亡くなって1年になりますが、いまだに母のことを思うと言葉にできないような複雑な感情がこみ上げてきて泣いてしまいます。私の半分を失ってしまったような気持ちです。母みたいなつらい生き方はしたくないと思いながらも、私たちの魂の結びつきは強いものでした。音楽や舞台、映画のことを教えてくれたのは母です。裏表がまったくない人で、夫婦関係は破綻していましたが、いいお友だちはたくさんいました。母と母の友だちと私という組み合わせで旅行をしたこともあります。

父とは路上でバッタリ会って強烈に惹かれ合うような大恋愛をして、そのまま田舎に嫁いでしまったそうです。カルチャーショックも大きかったでしょう。父との関係に苦しみながら弱っていく姿を見るのはつらかったです。でも、ああいう生き方しかできない人だったのかな、とも思います」

魂の結びつきが強いとはいえ、恵子さんは別人格の人間である。その証拠に、夫である幸司さんは父親とはまったく異なるタイプの男性だ。

「一緒にいるときは何かに思い悩むのがバカバカしくなるほど気楽です。私の横でカーっといびきをかきながら寝ていたり、ずっとスマホゲームをしていたり。彼の前ではあれこれ考えずにすむし、感情も丸出しにできています。彼に父親としての役割をどう思うかを聞いたら、『家族が安全で穏やかでいるための気配りをすること』だと答えるんです。何それ、すごすぎる、神かな、と思いました。私の父親とは真逆の人なのです」

つらいことを乗り越え、気遣い支え合うのが夫婦

今年に入って恵子さんと幸司さんには悲しい出来事があった。妊娠をした直後、恵子さんに持病がわかると同時に流産をしてしまったのだ。恵子さんは「あまり多くを求めてはいけないんだな。まともな人と結婚できたことが超めっけもんだった」と考えて、自分を慰めようとしていた。しかし、半年が過ぎて、母親のことを思い出すと心が乱れることがある。

「母も兄たちと私を産む前に2回流産を経験しました。申し訳ないので離婚して実家に帰ることも考えたそうです。そのときの母を想像すると、私もきっと大丈夫だと思いながらも泣いてしまいます」

そんなときに幸司さんは何も言わずに恵子さんの話を聞いてくれて、アイスクリームを買ってきてくれるという。

恵子さんはいま、パートで週4日働いている。元来が働き者の恵子さんはフルタイムの職を見つけようとしているが、幸司さんが優しく止めてくれた。この1、2年でいろいろありすぎたので、もう少し時間をかけて傷を癒やしたほうがいい、と。怒鳴り合い憎しみ合うのではなく、気遣い支え合うために夫婦はある。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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