生徒全員を救う事を目指さない「N高」の戦略 川上量生「初年度は1500人しか来なかった」
吉田:プログラミングに関しては、間違いなくその道筋が見えているわけですよね。
川上:僕らは専門家ですからね。こうやればいいだろうっていうのがあって。実際に結果で出ています。ほかにも作家志望の生徒には、プロの編集者が原稿を読んでアドバイスをするとか。そんなふうに、他よりもいい教育ができることがわかっている部分に力を入れています。
教育の世界では、1人も落ちこぼれを出さずに全員を救う、みたいな考え方がありますが、それは僕らには難しすぎるので、全員を救うことはやめましょうと。そうじゃなくて、Aというパターンで3人救って、Bというパターンで5人救って、足しても100%にはならないかもしれないけれども、少なくとも全体の何割かの生徒の人生は確実に変えられる。そして、その数を増やしていこうと考えているんですね。
生徒にとって必要なのはプライドとコミュニティ
吉田:授業に関しては、あくまでも知識と技術を教えることに特化していると。
川上:精神的な部分で生徒にとって必要なのは、プライドとコミュニティだと思っているので、それはそれで満足度を上げることを目指しています。ただ、生徒の声を聞いてみると実際に十分なコミュニティが作れたと言っているのは全体の60%ぐらいですね。20~30%はネット上でもコミュニティにうまく入れていない。とはいえ、これまでの通信高校ではそもそもコミュニティなんてゼロに近かったわけですから、まずまずかなと思っています。
吉田:それでも選択肢自体がこの世に存在するということは、すべての人にとって絶対的にプラスですもんね。
川上:たとえば大学というのはある種のモラトリアムで、なぜそれが許されているのかといえば、基本的に大卒のほうが優秀な労働力になるはずであるという暗黙の前提があるからだと思うんですよ。そして学生にとって、学校へ通うことの最大のモチベーションはコミュニティの場にいられることなんです。職業訓練の場とコミュニティが両立しているのが学校という存在です。
僕らは生徒がいちばん求めているコミュニティを提供します。同時に、彼らが社会に放り出されたときに生きていける武器を、やっぱりなんとしてでも身に付けさせたい。それがN高のミッションだと思っています。