生徒全員を救う事を目指さない「N高」の戦略 川上量生「初年度は1500人しか来なかった」

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川上:それはそうでしょう。やっぱり通信制高校に対するイメージ自体はまだまだ低いですから。実はN高の生徒って、進学校の不登校の子たちが多いんです。どうせ通信制の高校に行くんだったら、せめて納得できて、ある程度プライドも満足させられるのがN高だという選択なんですよ。

今の若い子たちって基本的にすごく保守的だから、普通の選択以外は基本的に難しい。だから今来ている子たちはやっぱりどこか「尖った子」たちなんです。現状ではそういう、ある種はみ出した子たちが選択する学校なので、僕らはそこを超えたいと思っているんですけどね。N高が「普通の選択」になるように。

教育に関して僕らは素人である

吉田:学校経営者のなかには勉強や学校を聖域と考える方もいれば、ビジネスだと割り切って考える方もいます。川上さんは経営者としてどちらの考え方なんですか?

川上 量生(かわかみ のぶお)/1968年愛媛県生まれ。株式会社ドワンゴ取締役CTO、学校法人角川ドワンゴ学園理事。京都大学工学部を卒業後、コンピュータの知識を生かしてソフトウエアの専門商社に入社。2006年よりウェブサービス「niconico」運営に携わるほか、現在は人工知能、教育事業などのIT先端技術関連の新規事業開発にも注力している。

川上:教育にもビジネス的視点は必要だとは思います。やっぱり費用対効果で考えるべきだと思うので。ただ教育の世界に入るにあたって1つ決めたことがあって、それは「教育に関して僕らは素人であることを自覚しましょう」ということでした。教育業界ってどこか聖域的なものがありますよね。ある種のイデオロギーというか、たとえば、教育で人間の本来のあり方を教えるみたいなこととか。

これは僕の個人的な考えですが、本来の動物としての人間って、自我なんてないんですよ。自我があるというのは、何かの勘違いか幻想でしかない。人間は基本的に場当たり的に生きているものだから、周りの環境に大きく作用されるんです。ただ、逆に場当たり的というのは環境に適応するっていうことだから、環境が重要なんですよね。けれど近代の教育というのは、その環境を飛び越える自我を持てという、そういう哲学みたいなことをいうわけです(笑)。

吉田:確かにそうだと思います。環境に左右されない自我の確立が大切と言われますよね。

川上:僕らは教育外の人間なので、その辺は正直わかりませんと。だから、僕らはそういうことはやらないし、偉そうなことを言うのもやめようと決めたんですよね。

じゃあ僕らは何をやるかというと、そういう観念的なことではなく、もっと具体的に、進学したい人には大学合格させます、就職したい人には就職させます、という部分を徹底していこうと。僕らはIT企業なので、現役のエンジニアを教師にした実践的な技能は教えられます。少なくともこれができれば、IT企業だったら普通に採用されるよう技術を身に付けて卒業してもらう。そうすれば、その子の人生は変わりますよね。

「人間力を育てる」なんていう漠然としたことではなく、実際に世の中を生き抜くための技術を身に付けてもらう。これはプラスになったよねと、僕ら自身が心の底から思えることだけを教えようというのが、N高がやろうとしていることです。そこを最低限の担保にしようと決めたんですね。

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