カシオが「高級コンデジ」を作らないワケ ミラーレス、高級コンデジブームと一線を画す

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縮小
液晶を自由に動かすことができる

新製品で搭載されたのは一度のシャッターでフォーカスと絞り、コントラストと彩度といった2つの要素を様々に組み合わせた9種類の画像が保存されるという世界初の機能だ。

ユーザーは保存された9枚から自分が意図しなかった写真を選ぶことができ、「カメラの知識がなくても、構図を決めるだけで簡単に驚きと創造性のある写真が撮れる」(QV事業部の松原直也開発部長)という。

電卓、腕時計、プリンタなどを手掛けるエレクトロニクスメーカーであるカシオは、最大の強みであるこのようなデジタル技術によって、他社のデジカメとの差別化を目指している。販売想定価格は8万円前後と、他社の高級コンデジと同等の価格帯だが、中山事業部長は「今ある高級コンデジ市場を意識した製品ではない」と力を込める。

数量追わず赤字を大幅縮小

カシオがデジカメの赤字体質から脱却できたのは、このような独自の製品開発のほか、販売数量を追わずに収益均衡を目指すという戦略転換も大きい。

市場の縮小が表面化していなかった数年前まで、コンデジの採算ラインとなる販売台数は1000万台以上と言われ、メーカー各社は広告宣伝費や販促費を投じて数量増を競い合っていた。しかし、2009年度のデジカメ事業の出荷台数が590万台に過ぎなかったカシオは、当時110億円の事業赤字に苦しんでいた。

カシオはそこから北米や欧州の販売を大幅に縮小し、日本や中国、東南アジアに集中的に経営資源を投入する方向に舵を切った。これによって販管費や広告宣伝費等の経費が大幅に削減され、昨年度は出荷台数が195万台と大幅に減少しながら、収支均衡圏へ赤字を縮小することに成功。今年度も200万台の出荷台数を見込み、収支均衡を維持する計画だ。

もちろん、ニッチを狙うこのようなカシオの戦略は、デジカメ事業をデジタルサイネージ事業など自社の他事業に転用する技術育成も含めた位置づけにし、大きな利益を求めないからこそ実現している面が大きい。また、販売数量の縮小による収支均衡は、カシオがデジカメの生産を全量EMS(電子機器製造受託)に委託し自社の生産設備を持っていなかったからこそできた戦略だ。

とはいえ、市場の半減という危機に直面している中、コンデジで赤字を縮小させたカシオの独自戦略は存在感を増している。

島 大輔 『会社四季報プロ500』編集長

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しま だいすけ / Daisuke Shima

慶応義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程修了。総合電機メーカー、生活実用系出版社に勤務後、2006年に東洋経済新報社に入社。書籍編集部、『週刊東洋経済』編集部、会社四季報オンライン編集部を経て2017年10月から『会社四季報』編集部に所属。2021年4月より『会社四季報プロ500』編集長。

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