小学校の「道徳教科書」はこんなにも危ない 70年前に書かれた高校野球の話も題材に

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子どもとおじいさんが架空の町を散歩し、いろんな出会いや発見をする話を読んで、はたして「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」が養われるだろうか。地域の伝統を教え、愛着を持ってもらいたいなら、学校を出てどの地区にはどんな店が多いか調べ、それがなぜかを考えたほうがずっといい。実際、文科省も教科書以外の教材、地域に密着している教材、映像教材、体験の利用を提唱している。

美意識や善意の判断基準を育むには

──週2時間の「総合的な学習の時間」との連携も提案しています。

中学生の多くはこの時間に職場体験をしている。たとえば、お店でお客さんの対応を任されたとする。質問され、よくわからなくても何か答えたほうがいいのか、待たせてでも調べて答えたほうがいいのか。これを道徳と結び付けると責任感に考えが及ぶ。

危ない「道徳教科書」
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日本の技術のすごさだって、地域の職人さんに話を聞き、実際に技を見せてもらえばいい。岐阜県の小学校では総合的な学習の時間を使って鵜飼いについて学んでいるが、鵜匠だけでなく伝統技術の粋である鵜飼い舟を作る舟大工にも話を聞きに行っている。

──ただでさえ疲弊している教師の負担が増しませんか。

外の人と一緒にやるのは確かに大変だ。ただ、教師というのは「この子たちはこうやれば腹落ちするんだ」とわかればそれくらいの努力はするし、学校全体で取り組めば個々の負担増は薄まる。

これは小中学生の子どもがいる、いないに関係ない、すべての人にとって大事な話だ。「法に触れなければ何をしてもいい」と考える人が増えればどうなるか。また、「なぜ人を殺してはいけないのか」と子どもに聞かれ、どれだけの大人がちゃんと答えられるのか。美意識、善悪の判断基準、節度といったものは上から強制できない。それを育むことができるのは教育なのだ。

筒井 幹雄 東洋経済 記者

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つつい みきお / Mikio Tsutsui

『会社四季報』編集長などを経て、現職は編集委員。

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