五輪ボランティアで対立する「批判」と「喜び」 募集を9月26日に開始、著者2人が激論交わす

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西川 : スポンサーからお金を集めているといっても労働提供もあるのであの数字(推定4200億円)ではない。(組織委は)オリンピック・パラリンピックを開催するにあたって、なぜやるのかを説明していない。ロンドンは子どもに夢を与える、イギリスのPRで観光客や投資を呼び込むといった明確な目的が5つあった。

ボランティアはアルバイトを採用しているわけではないから、お客さんという感覚で運営していかないといけない。交通費ぐらいは出してくださいと強固に主張したんですね。私の発言がのり弁かもしれませんが。もう少し透明性を持つべきと思っています。(組織委は)リーダーシップを取る人がいなくて、官僚的、出向的になっている。出向者意識は仕方ないが、プロとしてやってほしい。

※ ※ ※

組織委は9月18日、滞在先から活動場所への交通費として1日1000円を支給することを発表している。条件面では少し「待遇」がよくなった。確かに組織委、東京都は「なぜオリンピック・パラリンピックを開催するか」を明確に説明してきていないという西川氏の指摘は当たっている。いろいろな場面で発言などがあったのだろうが、まとめて都民、国民がいつでも見られるような形で提示していない。

ボランティアを募集する段階で今一度、組織委員会が開催の目的を示し、ボランティアに協力を求めるという姿勢があっていい。ボランティアを「ただで使う労働力」と考えていないことを鮮明にする必要があるだろう。こうした状況の中で、11万人のボランティアは集まるだろうか?

※ ※ ※

西川 : ​私は25万人以上(応募が)集まると思います。リオでは24万人のうち40%が海外からでした。東京ではどんなに間違っても海外から7~8万人、場合によっては10万人以上の応募があるかもしれない。

本間 : ​それなら海外の方にやっていただけたら良いのではないですかね。

西川 : ​受け入れの準備が整わない。

本間 : ​足りなくなったら、スポンサー企業の枠を大きくして、関東近郊の公務員の出馬を仰ぐんじゃないですか。お金を儲けられた会社から動員をかけるんじゃないかなと。ボランティアが悪いと言っているのではなく、国のシステムが悪いといっている。有償でもいいのでは。

批判がある以上、さまざまな意見を取り入れる必要も

西川 : ​お金が目的じゃなく、やりたくてやっているから。それでボランティアがハッピーで運営がハッピーなら、きれいごとばかりじゃないからいいんじゃないかなと。ボランティア(が成り立つの)はそれなりの経済が基準に達した国なんですね。

本間 : ​滞りなくできちゃったことがレガシーということで残って、東京の時は(ボランティアは)タダだったという(既定方針にされる)のは阻止したい。五輪の本来の意義は素晴らしいと思っています。東京大会ではそれがズタズタになっている。大事なことは私たちの意見も聞いて選んでいただけたら素晴らしいと思います。

西川 : 重要なのはいろんな意見を聞く。思考停止になったら絶対だめです。なぜやりたい人がいるか、何が問題なのか、よく考えて、自分としてやりたいなら何を選べるのか、反対なら何が問題なのか考えるのが重要です。

ボランティアに参加するのは選手と同じと考えているのです。その中で一緒に共感できて感動できる、またとない機会は重要だと思います。

※ ※ ※

不安材料を列挙する本間氏と、選択と体験の大切さを説く西川氏で、討論というよりは互いの考え、主張を出し合ったというのが筆者の印象だった。

言葉の強弱はあるが、2人に共通しているのは11万人を預かる組織委、東京都の姿勢、体制、オリンピック・パラリンピックへの考え方が具体的に見えていないことだ。

ボランティアの募集期間は12月まであるので、誰かが決断して誰もが納得できる形で示す必要がありそうだ。まだ間に合う。

(文中一部敬称略)

赤坂 厚 スポーツライター

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あかさか あつし / Atsushi Akasaka

1982年日刊スポーツ新聞社に入社し、同年からゴルフを担当。AON全盛期、岡本綾子のアメリカ女子ツアーなどを取材。カルガリー冬季五輪、プロ野球巨人、バルセロナ五輪、大相撲などを担当後、社会部でオウム事件などを取材。文化社会部、スポーツ部、東北支社でデスク、2012年に同新聞社を退社。著書に『ゴルフが消える日 至高のスポーツは「贅沢」「接待」から脱却できるか』(中央公論新社)。

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