ハーバードの名物授業が“世代交代”する? エリートたちに義務化された“スタートアップ実習”

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ただ「考える人」からの卒業

このスタートアップ実習は、1年間を通じて行われるFIELD プログラムを構成する3つのパートの最後の部分である。FIELDとは、Field Immersion Experiences for Leadership Developmentの略で、意訳すると「実践を通したリーダーシップ開発プログラム」となる。

ひとつ目のパート(FIELD1)では、プロの役者から立ち居振る舞いを教えてもらったり、スピーチや交渉を繰り返し練習したりすることで、コミュニケーション能力を身に付ける。2つ目のパート(FIELD2)では、発展途上国の企業がクライアントとなり、現地に赴いて新商品や新サービス開発のプロジェクトを行うことで、国際感覚と現場感を養う。そして、3つ目のパート (FIELD 3)では、総合力が求められる起業を体験する。そこでは、「考える人」から「実践する人」に変革させようとしている。

リーダーシップは、座学で学べるものではなく、経験を積み重ねることで初めて培われる。「世界を変革するリーダー育成」を掲げるHBSは、在学中から実践する場を与えようとしているのだろう。HBSのノリア学長は、今後7~10年かけて試行錯誤を重ねて、FIELDプログラムをケースメソッドと並ぶくらいHBSの代表的なカリキュラムにしたいと考えているようだ。

75万ドルを調達した学生

さて、私のチームのビジネスは、そこそこよい結果を出していたものの、クラスの決選投票で敗れてしまった。しかし、それでも得たものは大きかった。振り返ってみると、最大の成果は起業の魅力を教えてくれたことだったと感じる。チームを作り、アイデアを練り、試行錯誤しながら少しずつ形にしていく過程は、なかなかできない経験だ。

この実習で立ち上げたビジネスを、授業終了後も続ける学生もいる。たとえば、友人のジョーは、この授業で立ち上げたHourlyNerdというビジネスを続けている。HourlyNerdは、ビジネスへの助言を受けたい中小企業と、現役MBA生をつなぐプラットフォームで、企業がプロジェクト内容と報酬を提示し、それに対してMBA生が応募するという仕組みだ。

このビジネスは、ジョーのチームメイトの経験が発端になっている。投資銀行に勤めていたそのチームメイトに対し、中小企業を営む両親が、財務分析用のエクセルファイルを作ってほしいと依頼したことにヒントを得たのだという。

HourlyNerdは創業まもなく、数千人の現役MBA生と、数百社の企業が登録するプラットフォームに成長した。2013年9月には75万ドルの資金調達に成功し、現在2年生のジョーは卒業後もHourlyNerdを拡大させていくつもりだという。

統計によれば、HBS生の約半数が卒業後15年以内に起業家になるという。近年になり、スタートアップ実習という起業への選択肢を具体的に示したことで、HBS卒の起業家が今後さらに増えることになるかもしれない。

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