まもなく、ハーバードビジネススクール(HBS)は卒業のシーズンを迎える。学期末の最後の授業では、教授が特別なレクチャーをするという伝統がある。自身の経歴や過去の過ち、そこからのレッスン、そしてHBSから羽ばたく学生に対する熱いメッセージを伝えるのだ。生徒思いな教授が語る言葉は、胸にズシリとくるものばかり。今回はその一部をご紹介したい。
妻、パートナーの夢を尊重しなさい
リーダーシップと組織行動学の授業は、私の印象に残っている授業のひとつだ。そこでは1学期を通じて「キワどい」判断が迫られる。
たとえば、途上国の発展に貢献したいと、事業をしている人のケース。現地政府の高官から賄賂を要求された場合に、「大事の前の小事」と割り切って応じるのか、それとも悪事は悪事と、きっぱり拒否すべきか。こうした、正しい答えのないケースがこの授業では次々と取り上げられ、私を含む生徒たちはその都度、激しく議論した。
最後の授業で、教授は自分の人生の葛藤について語った。
「若かった頃、私は大学で、妻は大企業で仕事をしていた。妻は職場を気に入っており、毎日仕事を楽しんでいた。一方、私のほうは研究に行き詰まっており、将来に不安を感じていた。そんなとき、地方の大学から准教授としてのオファーがあり、キャリアアップのため引っ越すことにした。
私のキャリアは好転し、若くしてテニュア(終身地位保証)を手に入れられそうだった。しかし、その大学はものすごい田舎町にあり、その町で妻の転職先を見つけることはできなかった。妻のキャリアは完全にストップし、あり余るエネルギーのやり場がなく毎日不完全燃焼していた。しだいにケンカが絶えなくなり、家庭は癒やしの場ではなくなった。
ある日、私はふと思った。私は何を大切にして生きてきたのだろうか。自分のキャリアがどんなにうまくいっていても、家庭がうまくいっていなかったら幸せはありえない。私は妻の生涯の伴侶であるにもかかわらず、彼女の人生を大切に考えただろうか。
結局、テニュアが近かったにもかかわらず、大学を辞めてボストンに引っ越すことにした。妻は職を見つけ、キャリアを再スタートさせることができた。家庭は再び活力の源となった。しばらくして、私はHBSからオファーをもらい、今は准教授としてあなたたちを教えている。まだテニュアには遠いけど、それでもかけがえのない幸せな家庭を手にしている。ボストンへの引っ越しは人生最良の判断だった」
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