橋を架ける人
HBSの教授のほとんどはビジネス経験が豊富で、自ら事業を興したり、大企業の社長になったりした人もいる。百戦錬磨の彼らは、決して机上の空論に走ったり、きれいごとを教えようとはしない。あくまで自らのビジネス経験を実例として用いながら、目の前のケースやビジネス理論を教える。
そんな教授たちが最後の授業で伝えようとする内容は、やはり、自らの経験から得た「リアル」な教訓だ。ビジネススクールだというのに、「カネや名声でキャリアを選ぶな」と忠告したり、「自分よりパートナーの夢を大切にしなさい」と諭したりする。
それは、彼ら自身が過去に失敗したことがあるからであり、同じ過ちを次の世代に繰り返してほしくないと願うからだ。若くて血気盛んで、大きな夢を持つ若者に対して、幸せになってほしいと、彼らは心から考えているようだ。
経験豊富な大人が自らの過ちを認め、包み隠さず、若い世代と共有する。そのときの学びは、何よりも身にしみるものだと思う。
ある教授は、最後の授業で「The Bridge Builder(橋を架ける人)」という詩を朗読した。それは、旅をする老人が、自分が越えたばかりの濁流に橋を架けるという話だった。
村人に「もうあなたは川を越えたにもかかわらず、なぜ橋を架けようとするのか?」と聞かれたとき、老人は答えた。「私に続く若者たちは、いずれこの濁流に直面する。この橋は彼らのために架けるのだ」。
教授は詩を読み終えて、そっとほほ笑んで言った。「私にとって、この若者とはあなたたちです」。
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