日銀が物価の決まり方は「わからない」と白旗 「わからない」からこそ金融緩和はエンドレス

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なかなか金融緩和から抜け出せない日本銀行(撮影:尾形文繁)

あいまいな分析結果しか得られず自縄自縛に

実際、日銀の内外では昨年から急速に「高圧経済」(供給を上回る需要を作り出す政策を続けること、緩和の長期化)への注目度が上がっていた。

具体的には、2017年11月30日に行われた東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局第7回共済コンファレンス『マクロ経済分析の新展開: 景気循環と経済成長の連関』の議事録には「討論者の間では、景気循環と経済成長は連関しているとの認識が共有された。そのうえで、人手不足に伴う高圧経済が、省力化投資などを促すことで、生産性や潜在成長率を上昇させうるとの見方にも概ね同意がみられた」とある。

「また、高圧経済は、賃金や物価の上昇にもつながるとの見方も示された」一方で、「多くの高スキルの女性が単純な仕事をしているため労働の質の面でスラックが存在している可能性があること、人工知能などの技術導入が高圧経済下で促されること、価格を据え置くノルム(規範)が根強くあることなどから、上昇するまで時間を要する可能性も指摘された」とされた。

これらの議論を考慮し「賃金・物価に関する分析資料」は作成され、ひいては7月31日の政策の「調整」が決定したと考えられる。そして、その分析結果からは生産性の上昇がいつまで続き、「高圧経済」がいつまで行われるべきなのかについてのヒントはまったく得られなかった。日銀の今回の分析からは、物価低迷の理由もわからないまま、したがって、「金融緩和」の効果も不明なままで、「金融緩和」を消極的に選択し、エンドレスの状況に陥っていることが確認されたといえよう。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

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すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

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