具体的には、2018年1-3月の3カ月の短期間で140万人(就業者全体の2%に相当)も就業者数が増えたのである。データが正しければ、2017年の年間の就業者伸びが1%で、僅か3カ月で昨年の倍以上の雇用が突然生まれていたことになる。そして、失業率も5月には2.2%まで低下した。ところが、年初にみられた就業者数の急増は、GDPなどが示す緩やかな経済成長を示していた統計と整合しない。雇用が本当に急増していれば、個人消費も相応に増えたはずである。
雇用は緩やかに改善しているが賃金上昇圧力は強まらず
ただ、その後一時急低下していた失業率が7月に2.5%に再び上昇し、春先までの失業率低下が行き過ぎであったことが示された。また、年初に急増していた就業者数が減少するなど、月次の就業者数などのノイズはやや落ち着いている。振れをならしてみれば、失業率は2017年10-12月までに2%台後半に低下、2018年半ばには2%台半ばまで、緩やかながらも改善が続いているということだろう。緩やかではあっても労働市場の改善が続いていることは、長期政権となった安倍政権を支える土台となっている。
2%台半ばまで失業率が改善する一方、賃金上昇圧力は余り強まっていない。毎月勤労統計による、ボーナスなどを除く賃金指数は2018年1-6月に前年比+1.0%伸びている。2017年間の+0.4%から伸びが高まり、労働需給のひっ迫で2018年から多くの企業で賃金上昇圧力が強まっているようにみえる。
しかし、この賃金統計の動きには、「調査サンプルの変更」が大きく影響しているとみられる。参考系列として算出されている同じサンプルベースで比較した賃金指数の伸びは、2018年1-6月が前年比+0.5%と、2017年から若干伸びているに過ぎないが、こちらが実際の賃金の伸びに近いとみている。
先に述べた2018年前半のGDPや個人消費の緩やかな伸び、また消費者物価などインフレが緩慢なままであることを踏まえれば、2018年に賃金が大きく伸びている可能性は低い。なお、GDP統計上の雇用者所得は、2018年初に極端に伸びた雇用者数、そしてサンプル要因で高めに算出されている賃金のデータが基礎統計として使われているとみられる。このため、4-6月までに判明している雇用者所得の推計値は、過大推計になっている可能性が高いと考えられる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら