以上、まとめると、2018年に入ってから、雇用が増えて失業率改善が続いており、そして賃金の伸びも若干ながら高まっている。これまでの金融緩和政策などの景気刺激政策が、労働市場の需給改善として機能していることを意味する。ただ、これらの改善ピッチについての解釈については注意が必要で、2018年前半にみられた雇用の急増や賃金の伸びの高まりはノイズである部分があり、割り引いてみる必要がある。
仮に、賃金を含めて家計の雇用者所得が2018年に入って大きく伸びているのであれば、企業部門が主導してきた2013年以降の景気回復が、家計にも大きく波及していることを意味する。日本経済の回復ステージがさらに進むとともに、2%インフレを達成しつつあるアメリカに追随する格好で、日本でもインフレ上昇が期待できるだろう。だが現状では日本経済が、アメリカのような状況に近づいていると判断するのは、時期尚早だとみられる。
「日米交渉+消費増税+日銀」が3つのリスクに
それでも、さらに景気回復が長期化して、失業率が2%付近まで改善するなど労働市場の回復が続く中で、賃金の伸びはより高まっていくとみられる。そうした過程を経て、実現が遅れている2%インフレの実現がみえてくるだろう。日本経済は労働市場を含めて緩やかなペースでの回復が続いており、デフレ脱却の途上にあると依然位置づけられる。そうした意味で、金融財政政策による総需要安定化政策は引き続き必要だ。
日本経済のリスクは、金融市場でも懸念されているアメリカの関税引き上げ政策が日本の自動車産業にまで波及すること、そして2019年10月に予定されている消費増税によって2~3兆円規模で家計所得への負担が生じるが、それを補う規模での財政政策が発動されないことであろう。
それに加えて、最近筆者が意識しているのは、日銀が「緩和政策の解除方向に前のめりになるリスク」である。7月に行われた予想外の金融政策の変更は、金融引き締めと金融緩和徹底の双方のメニューがあるが、日銀の審議委員の中での意見の相違が反映されたとみられる。今後日銀でどのような議論が行われるかが注目されるが、長期金利の誘導水準やETF(上場株式投資信託)購入金額が、オペレーションを決める事務方の裁量によって左右される側面が増えているのではないだろうか。
7月の金融政策の調整がきっかけとなり、デフレ脱却を前に、日銀の中で金融政策の正常化が進む可能性がやや高まっているかもしれない。7月末の金融政策決定会合が、ドル円など為替市場に及ぼす影響は軽微だった。筆者の杞憂であればよいが、今後の日銀の姿勢次第では円高要因として浮上するリスクがあると思われる。
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