巨大災害は経済にどのような影響を与えるか 経済被害の大きさは「直接被害<間接被害」だ

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日本のサプライチェーンは伝統的に系列関係で縛られていたが、近年、部材の標準化が進み、サプライヤーや顧客企業の多様化が進んでいる。系列関係の強い自動車産業でも、最終メーカーのサプライヤーの数もサプライヤーの顧客の数も増えていることが大規模なデータで確かめられている[8、9]。このような流れは、日本経済の災害に対する強靭性を強化するもので、今後も多くの企業がこの方向に進むことが必要だ。

しかし、多くの企業、特に地方の中小企業にとって、これまでの系列の枠組みを超えて地域外の企業とつながるのは簡単ではない。十分な技術力があっても、適切な取引先を探すための情報力が不足していることが多いからだ。したがって、中小企業が取引先を拡大するために展示会や商談会に参加することを、政府が支援していくことが必要である。

巨大災害に備え、経済学の研究成果を生かすとき

中小企業の中には平時には取引先を多様化するような余裕のない企業も多い。そのような企業は、少なくとも災害時に自社や取引先が被災した場合にどのようにその生産を代替し、サプライチェーンの途絶を防ぐべきかの計画をBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)として策定するべきである。実際、東日本大震災でも、被災した企業が自社の金型を他社に譲渡することで部材の納入を継続させた事例が多く見られた。

だが、災害時の迅速な代替を可能とするためには、災害時の協力体制をBCPとして取り決めておくべきだ。とはいえ、やはり中小企業はBCPの策定に関する知識やどのような企業と連携すべきかの情報が十分でないことも多く、この点でも地道に企業向けのセミナーを開いたり、マッチングを促すなどの政策的な支援が必要だ。

南海トラフ地震や首都直下地震のような巨大災害はいつかは必ず襲来する。その直接被害、特に人命への被害を抑えるためのインフラ整備はむろん必要だ。しかし、経済被害を考えるとサプライチェーンを通じた間接被害のほうが大きく、それを抑えるための対策も忘れてはならないことを、これらの研究成果は示している。

(文中敬称略)

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