このように、災害による経済被害は、直接的な被害よりもむしろサプライチェーンを通じた間接被害のほうがはるかに大きく、それを縮小することによって南海トラフ地震のような大災害の経済被害の総額を相当程度抑えられる。
その1つの方法が、サプライヤーや顧客の多様化である。使用する部材が特殊でその供給を特定の企業に頼っている場合、サプライヤーとその顧客のどちらが災害の被害を受けても、もう一方の企業に甚大な影響が出てその被害が拡散していく。
東日本大震災でも、車載用マイコンを製造していたルネサスエレクトロニクス社の那珂工場が被災し、そのために多くの自動車メーカーが長期の生産停止を余儀なくされた。部材が代替できないと被害の伝播が速くなることは、井上と筆者のシミュレーションによっても確かめられている[5]。
従って、どうしても必要な部材以外は標準化して、多様なサプライヤーと取引を増やすことで災害の間接被害を縮小することができる。
多様な取引は災害時以外でも有効
このようにサプライヤーや顧客を多様化する、特に地理的に多様化して地域外の企業ともつながることは、災害時の復旧にも役に立つ。自社が被災しても、被災しなかったサプライヤーや顧客から支援を受けられる可能性が高いからだ。
前出のルネサスエレクトロニクスの被災工場も、多くの自動車メーカーの支援を受けて当初の予想よりも早期に復旧できた。筆者とPetr Matous(シドニー大学)、中島賢太郎(一橋大学)の推計によると、東日本大震災のときに被災地外の取引企業の数が2倍違うと、被災地企業の操業停止期間が約3割短縮できていたことがわかっている[6]。
さらに、このように地理的に多様に取引していると、災害時以外でもメリットがある。筆者とMatous、井上の別の研究では、都道府県外の企業との取引があると生産性が向上することが示されている[7]。これは、地域外の企業は自社にはない知識を持っていて、取引関係を通じてその知識が伝わるからだと考えられる。
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