サプライチェーンがスモールワールド・ネットワークであれば、ある企業の業績が何らかの理由で悪化すると、それがサプライチェーンを伝わって伝播し、ほかの多くの企業の業績にも影響する可能性が高い。実際、東日本大震災ではサプライチェーンの途絶を通じて、被災地外の企業も大きな影響を被った。
その影響を定量的に分析した齊藤有希子(早稲田大学)や楡井誠(東京大学)らの研究[4]では、被災地外の企業でも被災地企業とサプライチェーンでつながっていることで震災後の1年間の売上高成長率が1~2%ポイント減少したことがわかっている。

しかも、直接つながっていなくて、サプライヤーのサプライヤーのサプライヤーが被災地企業、顧客の顧客の顧客が被災地企業であっても、売上高成長率は1%ポイント程度減少した。サプライチェーンにおいて企業が平均的に4.8社の隔たりでつながっていることを考えると、日本中の大部分の企業が東日本大震災によって影響を受けたと言える。
実際、井上寛康(兵庫県立大学)と筆者が行ったシミュレーションでは、東日本大震災の被害がサプライチェーンを通して伝播することで、被災地外の企業の生産額は11兆円(GDPの2.3%)減少したと推計されている。これは、地震と津波による直接的な生産額の減少の実に100倍にあたる[3]。
ほとんどの地域が南海トラフの影響を受ける
さらに筆者らは、今後30年で70%の確率で起きると予想されている南海トラフ地震の被害についても、シミュレーションによる予測を行った。その結果、被災地内の生産額の減少も2.3兆円と巨額に上るが、サプライチェーンを通じた被災地外の生産額の減少は52兆円と、GDP(国内総生産)の10%に上ると推計された。
被害の時間的変化を地図上に示したシミュレーションでは、地震後2週間から3週間で日本のほぼすべての地域の企業が大きな被害を受ける様子がはっきりととらえられている。
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