日光で消えたフランス人女性を知りませんか 失踪から約1カ月、ベロンさんの素顔と足取り

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これまで日光ではこうした行方不明事件は発生したことがなかったため、警察は早い段階で何かを見つけられるだろうと考えていた。しかし、捜査が長引くにつれ、緊張感といらだちが増している。

そのうえ、国際的な事件であることから、栃木県警は異例な注目を集めることとなっている。ベロンさんの家族は、本能的に警察や日本のマスコミを信頼するだろう一般的な日本人家族に比べて、要求も多い。ベロンさんにはてんかんの持病があるので、忍耐強く待っていることはできないのだ。だから、日本の警察の「お役所仕事」にも憤慨した。一生懸命働いているが、無用な仕事でエネルギーを無駄使いしているのではないか、と。

日本の警察は複雑な犯罪を扱った経験が少ない

これに対して、警察はその「余計な圧力」に怒りを隠していない。この事件はベロンさんの母親、アンヌさんが必死の思いでマクロン大統領に、娘の捜査に「すべての手段が使われていない」と主張する公開書簡を書いたときから、外交問題に発展している。

地元警察は、自分たちの取り組みを外国人がきちんと理解していない、と感じている。「この事件は彼らにとって非常に重要であり、近しい人たちには捜査について説明している」と関係者は話す。現場捜査に同行したフランス人の立会人は、このような事件ではフランスの警察も日本の警察と同じように捜査するだろうと結論付けている。

「日本ではほぼ犯罪が起こらないため、日本の警察には複雑な犯罪を扱った経験がほとんどないし、それを把握する能力にも欠けている。彼らは非常に厳格で、官僚的で、何かを変えたり、改善したりすることはない。それをするだけの独立性を与えられていないからだ」と、2007年に日本で殺害されたイギリス人女性、ルーシー・ブラックマンさんの事件に関する著書『People Who Eat Darkness』を書いたベテランジャーナリストのリチャード・ロイド・ペリー氏は日本の警察についてこう書いている。

スタニスラスさん、ダミアンさん、シビルさん、そしてアンヌさんは8月19日にフランスへ戻った。日本の警察は引き続き捜査している。ベロンさんが暮らす町、ポワチエでは休暇が終わり、9月3日には子どもたちが学校へ戻ってきた。ベロンさんが世話をしていた、障害のある子どもたちも。しかし、ベロンさんが子どもたちを迎えることはできなかった。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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