狂気なほど金持ちアジア人に全米が沸くワケ 「クレイジー・リッチ!」大ヒットの内幕

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ただ、この「本当のアジア人」というところが注意点でもある。人種について敏感なアメリカでは、こうした映画で各人種がどう表現されているかについてどこまでも分析をする。人気作品だけに、『クレージー・リッチ!』にも次々と批判が出ているのだ。

たとえば、ニックのハンサムぶりはアジア的ではなく西洋の価値観に基づきすぎではないかとか、アジア人と言っているが、出てくるのはシンガポール人ばかりで、少し肌の色が黒い東南アジア人は無視されているとかである。

なぜアメリカ人のハートをつかんだのか

さらに中国系でない俳優が中国人を演じているのを問題視する声もある。中国人でない俳優の1人は、ニックその人。演じるヘンリー・ゴールディングはマレーシア出身で、イギリス人の父親とマレー人の母を持つ。もう1人は日本人の名前を持つソノヤ・ミズノだ。日本人の父とイギリスとアルゼンチン系の母の間に生まれた日系イギリス人である。

オールアジアン・キャストの映画が少ないだけに、ここに描かれたアジア人像の「正当さ」をめぐって、これからもどんどん議論が出てくるはずだ。

原作の『クレイジー・リッチ・アジアンズ』は、シンガポール系アメリカ人のケビン・クワンの3部作の1つ。3部作はすべてリッチに関するもの。クワンは幼い頃から『グレート・ギャツビー』の作家、F・スコット・フィッツジェラルドの愛読者だったという。

この作品を観に行った映画館では、アジア系はどちらかというと少数派で、さまざまな人種の老若男女が観客席を埋め尽くしていた。何はともあれ、ロマンチック・コメディというジャンルのおかげだろう。そして、『ジ・アトランティック』誌の映画評が指摘するように、その基本は「ハイソサエティのラブストーリー」という古典であるところが、万人の足をここへ向けているのだろう。

アメリカのメディア、ファスト・カンパニーは、『クレイジー・リッチ!』の大ヒットを受け、ハリウッドの幹部も「これは映画スタジオにとってウェイクアップコールになる可能性がある」と話していると報道。もちろん、映画の内容自体が優れていることが前提だが、今後、ハリウッドでより多くのアジア人俳優が活躍する姿を見られるかもしれない。

瀧口 範子 ジャーナリスト

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たきぐち のりこ / Noriko Takiguchi

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家:伊東豊雄・観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち:認知科学からのアプローチ』(テリー・ウィノグラード編著)、『独裁体制から民主主義へ:権力に対抗するための教科書』(ジーン・シャープ著)などがある。

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