現在も活動する「陰陽師」の知られざる正体

「結界」は日常生活にも存在している

ところが晴明は、19歳で陰陽寮に入ります。つまり、わずか4年ほどで陰陽道の膨大な知識や、それまでにあった術をすべてマスターしてしまったということになります。まさに、天才としかいいようがありません。

しかし、晴明の本当のすごさはそこではありません。彼はすべての術を理解したうえで、さらに術に次々と手を加え、つくり変えていきました。師弟の世界においてこれは、一歩間違えれば師匠を否定するということにもつながりかねません。

晴明の師匠である賀茂氏は、陰陽道をあくまでも学問としてとらえ、実践していました。ところが、霊的に突出した力を持っていた晴明は、そこに超能力的な要素を加えて大変革を起こしたのです。

陰陽道の基本、基礎をつくりなおし、術を工夫し、すべてを変えてしまいました。日本流の陰陽道をつくりなおした、といってもいいかもしれません。

しかも晴明は最終的に、天文博士という役職になっています。これは実質的に陰陽寮の学問分野のトップということです。陰陽寮のなかでそれより上のポジションは陰陽頭しかいません。つまり晴明は、霊的な力をもったうえで、学問的な分野でもトップになるというカリスマ的存在だったわけです。

「結界」は日常生活にも存在する

現在、私たち陰陽師には1080もの術が伝わっています。安倍晴明がつくりだした術もあれば、子孫たちがつくった術もあります。それらの術のなかでも、基本となるのが「結界」です。

そもそも結界とは何でしょう。結界の始まりをひとことでいうと、「区切るもの」でした。

簡単にいうとそれは、神の領域と人、彼岸と此岸、向こうとこちら、あるいは、そうでないものとそうであるもの――それらを区切るものが、結界のおおもとになったと考えていただければと思います。

じつは私たちが意識していないだけで、日常生活のなかにもごくふつうに結界は存在しています。

たとえば食事における箸置きがそうです。食卓ではほとんどの人が、膳の手前に横向きに箸を置くはずです。これもひとつの結界なのです。

食事は、生きていくために与えられた、神様からの賜り物です。手をつける前の食物はまだ神の領域にある、神のものなのです。箸置きは、神様と人間との間に張られた結界なのです。

ですから人間は食べる直前に、「頂戴します」とか「いただきます」といって箸をとる。つまり、神との間に張られた結界を外し、自分のものとするわけです。

ここからも、結界は「区切るもの」だったという意味がご理解いただけるのではないかと思います。

その「区切る」ということから発展し、「区切って守る」もしくは「区切って封印する」というかたちになったものが、今日の結界なのです。

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