すぐに気づくのは、画家が絵から飛び出してきたこと。ここは『ラス・メニーナス』が飾られているプラド美術館の展示室だ。絵の中の画家のアトリエと現代の展示室が350年の時を超えてつながった。ここでは小さくて見づらいが、絵の中では鏡から国王と王妃の姿が消え、ベストを着た森村泰昌さんが奥の扉からアトリエに入ってこようとしている。
「魅力的な絵をじっくり見るがあまり、自分がその中に迷い込んでしまう。それが究極の絵画鑑賞のあり方ではないか、と森村さんは話しています。作品を通して『ラス・メニーナス』の謎解きを試みたのではなく、絵を見ているうちに生まれてきたイマジネーションを作品にしているのです」と豊田さんは言う。
ベラスケスを思わせる黒服の画家は、森村さんが演じている。森村さんはこれまでも世界の名画、写真、映画のワンシーンなどを自分なりに解釈し、登場人物に扮して再現する作品を発表してきた。
「今回は1枚の絵を基に新たな物語を作り、紙芝居のようにストーリーを展開させて見せています」
つまり、『ラス・メニーナス』に登場する11人に扮して写真を撮り、全8幕の一人芝居に仕立てた。絵が描かれた時代、スペイン王宮、宮廷画家のベラスケスの立場など、徹底的にリサーチしてから取り組んだという。
では、次の幕はどんな展開になるのだろうか?
絵から全員がぞろぞろと……
みんながぞろぞろと絵から出てきて、絵のほうを見ている。絵の中で絵筆を握っているのは森村さんだろうか。王女たちを描いているように見える。左の大きなキャンバスには、森村さんが1990年に制作したマルガリータ王女の作品が使われている。次の幕では国王と王妃が登場し、物語はこの後も続いていく。
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