もう一人の友人は、食道がんの手術後であったが、彼も1万歩神話を信じて、術後、体力をつけたい、健康に戻りたい一心で、毎日、冬も夏も、せっせと1万歩、歩き続けた。
手術後で体力がないから、1万歩も歩くとなれば、3時間もかかる。会うごとに、弱っていく。それで、無理に歩かなくてもいいのではないかと強く言ってみると、彼も限界だったのだろう。1万歩歩くのをやめた。やめた途端、日に日に元気になった。
運動すれば健康になるというのは神話だと思う。スポーツ選手の寿命は、一般人より短い。1998年のデータでは少し古いかもしれないが、この年の日本人の平均寿命と比べ、スポーツ選手は5~10歳は確実に早死にしている。もっとも短命なのは相撲、そして、自転車、ボクシングとなっている。その平均寿命の差は、なんと一般人より20歳ほど短いそうだ(大澤清二『スポーツと寿命』)。
やりすぎは、かえって健康を害する
もちろん、20年ほど前のデータだから、今は、スポーツ医学も進歩して、これほどの差はないと思うが、それにしても「スポーツをすれば健康でいられる」「スポーツをすると寿命は延びる」というような相関関係は見られない。その人にとってのやりすぎは、かえって健康を害するということである。
たとえば、身近で、松下幸之助さんを見てきたが、病身で生涯、ベッドで横になり、具合のいいときに活動するという日々であったから、一日100歩も歩かなかった。しかしそれでも94歳まで、まさに天寿を全うした。禅宗の老師は、早朝から座禅、終われば来客。出かけるときは小僧の運転する車で移動して、ほとんど運動らしきものをしているところを見たことがなかったが、なんと105歳まで元気であった。
という先輩諸氏を見てきた経験からすると、運動すれば健康になるとか、スポーツをすることが長寿につながると信じ込まないほうがいい。50歳、60歳、まして70歳以上は、努力しての運動などせず、自然の求めるまま、動くときには動く、歩く必要のあるときは歩く。それでいいのではないか。
要は、主治医は自分である。医者の言うことを聞くより、自分の体調と相談して、日々を過ごしたほうがいいということである。信じてほしいという思いはないが、自分自身はそう思っているということだけ付け加えておく。
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