トランプが起こした貿易戦争の思わぬリスク 関税の応酬は世界経済を衰退させかねない

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もっとも、トランプ大統領が貿易戦争の結末まで考えているかどうかは極めて不透明だ。中国の思わぬ報復関税に慌てて120億ドルの補助金を農業関係者に出すといったバタバタな経済政策が行われている。

こうした貿易戦争は、EUにも飛び火してオートバイメーカーのハーレーは欧州向けの製品をアメリカ内で生産するのをやめた。カナダやメキシコも戦う姿勢を鮮明にしており、どんなにアメリカが経済大国であろうと、そうやすやすと貿易戦争に勝てるとは思えない。

実際に1930年代の大恐慌では、アメリカが自国の産業を守るために関税強化を打ち出し、それに対抗して報復合戦が始まり、やがて経済の縮小を招いて、第2次世界大戦へと発達してしまった。そういう意味では、現在の世界経済は1930年代の大恐慌時代に酷似しているとも言われており、トランプ大統領がやった経済政策は歴史に残る大失政に終わる可能性がある。

このほか、最高裁判事の入れ替えによって保守派を揃えることに成功したトランプ政権は、今後しばらくの間はアメリカを大きく保守的な国に転換させるかもしれない。移民政策や人種差別、銃規制、環境といった面で、保守派の意図する方向に進んでいく可能性が高くなる。

トランプリスクが世界を変える?

こうした一連のトランプ政権の動きは、今や世界中で「トランプリスク」としてとらえられているわけだが、いまある危機で最も深刻なのはやはり貿易戦争だろう。このまま報復関税の応酬を繰り返したら、やがて世界全体の景気は縮小方向に走っていく。

この7月27日発表されたアメリカの2018年第2四半期(4~6月)のGDPの速報値は年率換算で4.1%増となった。トランプ大統領は「歴史的規模の景気好転を達成した」と自画自賛したが、この数字は貿易戦争を反映していない。成長率の大きな伸びに惑わされると、いま目の前に存在するリスクを見落としがちだ。

加えて、親イスラエルの家族を喜ばせるために始めたとみられるイランに対する強硬姿勢は、やがて原油価格の高騰をもたらすかもしれない。トランプリスクは、世界経済全体のリスクと言ってもいいかもしれない。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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