トランプが起こした貿易戦争の思わぬリスク 関税の応酬は世界経済を衰退させかねない

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トランプ大統領が、米露首脳会談で自国の情報機関が出した結論よりも、ロシアのプーチン大統領が発した言葉を信用すると発言したことも、共和党内部も含めて大きな批判が出た。帰国後「裏切り者」といった強烈な批判を浴びたため、記者会見で「単なる言い間違え」と乱暴に訂正。最近では、トランプ大統領を批判し続けてきた大手メディアもやや疲れ気味だ。

しかも、欧州の西側諸国首脳との会談では、軍事、経済、政治面で長年にわたって同盟を組んできた彼らを侮辱し、これまでの観念をぶち壊す発言まで発した。ここまでくると、トランプ大統領の「やりたい放題」「打つ手なし」という印象すら受ける。

こうした言動は、独裁政治家がよくやる手法なのだが、最近のポピュリズム政権も好んで使う手法といっていい。日本の安倍政権も同様に、どんなにスキャンダルや政治運営上まずい不祥事がわき起こっても、「国民に対して深くお詫びする」というフレーズだけで、うやむやになる。

EUなどの欧州でも、こうした右派勢力の政党が勢いを伸ばしており、今後のポピュリズム政権の行方が気になるところだが、それにしてもトランプ政権の政治手腕は常軌を逸していると言っていい。

ドナルド・トランプの大いなる勘違い

そもそもトランプ大統領は、不動産取引のノウハウとテレビの視聴率をとった経験だけで、全世界の貿易や経済、軍事的な交渉から政治パフォーマンスまで、すべてを一人でこなそうとしているふしがある。そして、そのノウハウがいまや明らかに限界を超えている現実を、世界中が目の当たりにしている、と言っていい。

トランプ大統領は、強硬な通商政策が秋の中間選挙のためではないことを強調している。しかし、少なくともトランプ氏の経済政策は大いなる勘違いが随所に見られる。十分に検討した結果のものでないことは明らかだ。

そもそも貿易の量は、モノの輸出入だけで判断しては大きな誤解を招く。トランプ大統領が主張する貿易収支だけで判断するのは、もう30年以上前の発想だ。国家間の取引ではモノ以外のサービスの提供による「サービス収支」をはじめとして、投資した金融債務や金融債権から生じた証券投資、あるいは企業を買収するなどの直接投資による収益を考慮に入れて判断する必要がある。

これらの直接投資収益などを総称して「第1次・第2次所得収支」というのだが、要するに貿易収支だけでその国が稼いでいるかどうかは判断できない、ということだ。

もっとも、アメリカの場合は貿易収支に加えて第1次所得収支、第2次所得収支を加味して判断される「経常収支」も、1990年代前半を最後にひたすら赤字を続けている。これは、アメリカが自由貿易主義を推進した結果ともいえるが、国や地域を超えて収益を上げていく企業が、アメリカには多いことを物語っている。

たとえば、アメリカを代表するIT企業のグーグルやフェイスブック、ツイッター、アップルそして アマゾンといった企業は、世界中で莫大な利益を上げているものの、その数字は正確にアメリカ本土に反映されているかといえば、その大半は反映されていないはずだ。

これらをカウントせずに貿易収支だけを見るために、「アメリカは損をしている」という主張になるわけだ。おそらく、トランプ大統領もそうした事実を理解していながら、政治的パフォーマンスを目的として、あえて表面的な貿易赤字をことさらクローズアップしていると考えられる。

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