「大家さんと僕」が日本人にじんわり響く理由

大家さんには現代人にない上機嫌さがある

齋藤:空気って、その場にいる人の身体性で決まりますよね。空気や雰囲気は何となくあるものではなくて、人の身体から発せられるものの混合体なんですね。

矢部:体の状態が関係している?

齋藤:そうそう。前に立つ人が不機嫌だったり緊張していると、その緊張が伝わることがありますよね。

大家さんはゆったりしていて、上品な雰囲気がある

矢部:まさにそうでした……緊張は、よくないですよね。

『大家さんと僕』には”安定した情緒がある”と語る齋藤教授(写真:新潮社写真部)

齋藤:でも、緊張自体は悪くない、という考え方もできますよ。「能力があるから緊張する」という説もあって。マラソンで有名な宗兄弟がいますよね。その兄の茂さんが、現役時代にある大会でスタートラインに立ったとき、ちっとも緊張してない自分に気づいた。それで引退を決意したそうです。これって裏を返せば、自分に期待しているからこそ緊張しているとも言える。緊張が悪いとはかぎらないんですよ。

矢部:じゃあ僕は、自分に過剰な期待をしているんだ!(笑)

齋藤:そうかもしれません(笑)。緊張して不機嫌になる人も多いですが、矢部さんは機嫌が悪くなることってないですよね?

矢部:ないです。性格なんでしょうか……あっ、大家さんと一緒にいるからかもしれません。僕はいまも『大家さんと僕』に登場する一軒家に暮らしているんですけど、大家さんってつねにゆったりしてて、上品な雰囲気を保っているんです。

『不機嫌は罪である』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

齋藤:それこそ、先ほど言った「上機嫌マンガ」の核心です。『大家さんと僕』は矢部さんと大家さんの交流を描いたエッセイマンガですが、僕はこの作品のベースに“安定した情緒”があると思うんです。

矢部:安定した情緒?

齋藤:はい。作中で大家さんと矢部さんは感情をむき出しにしたり、急いだりすることがなく情緒が安定しています。その揺るぎなさは読む人に安心感を与え、読後感のよさにもつながっている。作品を貫くのは、ハイテンションではないホンワカした上機嫌。それがとっても心地いい。

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