「大家さんと僕」が日本人にじんわり響く理由

大家さんには現代人にない上機嫌さがある

矢部:どこまで引けるかな?と思ってます。「この一言だけでも通じるなぁ」とか。逆にこの場面は、背景を描き込みすぎて後悔しました。

(c矢部太郎/新潮社)

齋藤:これで描き込みすぎなんですか?(笑)

矢部:はい。雑多な場面から次の先輩の一言につなげようと思ったんですけど、やりすぎました。この場面は本の後半に出てくるんですけど、最初より自分の画が上手くなってきて、うれしくてつい……(笑)。

齋藤:基本的にシンプルな表現なのですが、それが逆に想像力をかき立てます。知人の死について語る大家さんの背中をあえて小さく描いたりと、言葉で説明しなくても、これだけで大家さんの悲しみや虚しさが伝わってきます。オーバーに感情の起伏を見せないのも日本的ですよね。同じ表情だけど、笑ってるようにも、泣いているようにも見える。

間(ま)の取り方はお笑い

矢部:前後にストーリーがあるから、たとえ同じ表情でも同一には見えないと思うんです。

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齋藤:一方、作品に描かれる身体表現はけっこう大胆で、思い出のシーンで突然車がふわりと浮かんだりする。身体感覚も鋭敏ですよね。

矢部:バラエティ番組でプロレスラーに投げられたり、ペットボトルロケットに括り付けられて飛ばされてたのがやっと生きたんですかね~(笑)。

齋藤:『大家さんと僕』の間(ま)の取り方は、お笑いの間ですよね。芸人・矢部太郎の持つ身体性が作品のテンポや間を作り出し、大家さんと矢部さんの丁寧な日本的コミュニケーションが、作品全体の安定した上機嫌を生み出している、そう思います。

矢部:うわぁ、すべてつながってますね! でもその経験を、肝心のお笑いで活かせないんですよねぇ……。

(構成:出来幸介)

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