「大家さんと僕」が日本人にじんわり響く理由

大家さんには現代人にない上機嫌さがある

矢部:僕の所属するよしもとには、大家さんのような美しい言葉遣いをする人はゼロです。だからみんな大家さんから学んでほしい。特に、本に出てくる「ガサツな先輩」のモデル、ほんこんさんには……。

齋藤:いいんですか、名前出しちゃって?

矢部:あっ、ほんこんさんだから大丈夫です(笑)。

前面には出さないけど、控えめながらしっかりと伝える

齋藤:先ほど、言葉の丁寧な渡し方という話題が出ましたね。ある種、非常に日本的なコミュニケーションといえますが、丁寧さとはまた違う興味深いやりとりが描かれているシーンがあります。

(c矢部太郎/新潮社)

矢部さんが、大家さんについて後輩に話したとき思わず「おばあちゃん」と言ってしまった。それを大家さんが偶然聞いたあとの1コマですが、大家さんの秘めたるプライドが垣間見えますよね。面白いのは、大家さんと矢部さん、一見我の強くない人間同士が、ちゃんと自分のリクエストを持っているということです。前面には出さず、控えめに、でもしっかりと伝えている。これって、実に日本的な感情の伝え方だと思うんです。

矢部:そう、でしたか……。

齋藤:多くを語らない、でも実は雄弁に語っている。これは『大家さんと僕』の大きな魅力の1つです。次のページの沈黙のリズムも読ませます。

(c矢部太郎/新潮社)

あるとき大家さんが偶然、初恋の人と再会して「実は初恋の人でした」と打ち明ける。そしたら相手が「言ってくれれば……」とポツリと言うんです。それを回想しながら大家さんと矢部さんが立って話をしている。セリフだけのコマと、画だけのコマ。この4コマのメリハリの付け方は見事だと思いますね。日本画を観るような「余白」があります。

矢部:デジタルで描いてるから、どんどん削れるんです。1回描いて、描きすぎちゃったと思ったら消してます。

齋藤:実際に引き算して描いているんですか!

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