民泊新法、それでも「掟破り」が跋扈する真因 違法行為が放置されれば多方面に悪影響及ぶ
訪日外国人の急激な増加に伴い、東京都心部や京都、大阪などでは宿泊料金が高騰。これらの地域では、会社から支給される出張費の範囲内で泊まれるマトモな宿泊施設がないといった現象も発生した。
そのような中で、設備投資額が極端に少ない民泊は急激に拡大していった。ただ、商業施設やオフィスビルをホテルに用途変更することなどにより、短期間で多くのホテルが開業したことから、急激に落ち着いている。五輪期間中は一般のビジネス、国内旅行客が減少することや、船をホテルとして営業するホテルシップなどの取り組みにより、宿泊施設が余るのではないかという見方もある。
みずほ総合研究所が今年1月に発表した「インバウンドの新たな注目点とホテル不足の試算アップデート」によれば、新たなホテルのオープンによる供給が予定どおりであれば、東京や大阪を含む、どの地域でも宿泊施設不足は発生しないという。供給数が下振れした場合でも、不足数は減少している。「宿泊施設不足を民泊で補う」という大義名分は、もはや崩壊している。
違法民泊により影響を受けるのは、低価格の観光客に特化した独立系ホテル、そして賃貸として貸し出すよりも民泊として観光客に貸し出すほうが得になる考え、賃貸物件から追い出される住民である。
スペインの観光地、バレアレス諸島では、住宅を民泊に転用したことで、観光客数が大幅に増加。賃貸物件の家賃も高騰した。困惑した自治体側は、住宅を観光客に貸し出した家主には最高で4万ユーロ、エアビーなどの仲介業者が許可なき物件を掲載した場合、最大40万ユーロの罰金も科すことを決めた。バルセロナでも宿泊施設の新規登録数に制限を設け、無許可の宿泊施設に対して最大60万ユーロの罰金を科すことにするなど、違法民泊の撲滅に動いている。タイでは1カ月以下の民泊での賃貸は違法との判決が下るなど、民泊業界は強い逆風にさらされている。
観光やビジネスに依存する都市は、宿泊施設の営業に制約を課すことで、都市運営をコントロールしている側面もある。バランスが崩れれば、道路の渋滞や交通機関の混雑が慢性化し、治安の悪化にもつながる。そのような都市を訪れた観光客の満足度も低くなるだろう。地域住民にも反観光客ムードが高まるはずだ。日本でも、民泊物件近くの民家に勘違いして上がりこんだり、住宅街で深夜にスーツケースを転がしたりするなどの騒音問題、身近なところではポイ捨てや不法投棄などごみ問題も聞く。これらは「観光公害」とも呼ばれ、世界の観光都市で問題となっている。
なぜ違法民泊を続けるのか
疑問に思うのは、「なぜ違法民泊を続けるのか」ということだ。
合法に運営を行おうとすれば、営業可能日数は年間180日もしくはもっと厳しい規定を遵守しなければならない。同じマンションの住戸や店舗のほか、建物の敷地に接する土地にある建物にある住民にも書面で説明する必要もある。宿泊者にはテレビ電話を含めた対面での本人確認も義務付けられている。また、ホストが不在になる場合、管理業者に宿泊者の安全や衛生の確保、宿泊者名簿の作成や備え付け、苦情への対応などを委託しなければならない。ホストか管理業者は、非常時などには30分以内に物件に赴くことができるように定めている。
単純に計算すれば、通年で営業できたものが180日に制限されることで、収益はこれまでの半分になるとともに、管理委託などの費用は増加する。民泊新法施行により撤退した個人のホストも多く、目下は宿泊料金が高騰しているが、グレーゾーンで二の足を踏んでいた不動産会社などの参入も相次いでおり、今後は見通せない。
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