こういった企業は「駐在妻の働きたいという気持ちを搾取している」というふうに言う人もいた。
子育てなどをほかの人に頼むことができれば働く時間は伸ばせるかもしれない。しかし、鶏と卵ではあるが、待遇が低いと、住み込みのメイドさんを雇ってフルタイムで働こうという気にもなれない。メイドさんを雇うにはなんだかんだで税金など入れれば、筆者の住むシンガポールでは月6~8万円かかり、その費用を捻出するほどの価値があるか?と思ってしまう人も多いようだ。
なぜ主婦の時給は低いのか
もちろん主婦労働の待遇が悪いのは、今に始まったことではない。長年、日本の女性の就労については、出産などで一度仕事を辞めると再就職先が非常に限られることが、高学歴女性が主婦になる理由として研究されてきている。
薄井シンシアさんは著書『専業主婦が就職するまでにやっておくべき8つのこと』の中で、真剣に覚悟を持って専業主婦というキャリアを務めていれば様々なスキルが身についていて、その後就いた仕事で実績を出しているにも関わらず、ブランクと年齢が就職や評価を阻むと指摘している。
そもそもなぜ主婦の時給は低いのだろうか。なぜブランクと年齢で差別されるのだろうか。働き方改革の一連の法整備で、同一労働同一賃金の問題も取りざたされているが、日本は正規と非正規の賃金格差が大きい。
労働政策に詳しい研究者である濱口桂一郎氏は、過去の通達などを分析し、たとえば失業保険について、非正規については「臨時内職的に雇用されるもの、例へば家庭の婦女子、アルバイト学生等であって」「即ち家計補助的、又は学資の一部を賄うにすぎないもの」は「労働者と認めがたく、又失業者となるおそれがな」いので、「失業保険の被保険者としないこと」と定められていたと述べる(1950年の「通達」に記載されているのを濱口桂一郎氏が発掘)
2010年改正でようやく適用が条件つきで拡大されているが、もともと非正規雇用というものが、つまりは正社員の夫や親の稼ぎがあることを前提にした主婦か学生の小遣い稼ぎにすぎず、保護する必要がない立場とされていたことがわかる。
また、所得税の配偶者控除(妻の年収が103万円以下の場合、妻は所得税を払う必要がなく、夫の課税対象所得から38万円を控除できる)や社会保障制度も、当然、賃金格差に影響を及ぼしている。
2010年に実施された労働政策研修・研究機構の「短時間労働者実態調査」によると、年収103万円を超えそうになった場合に就労調整をしていると回答している人は25%。この制度によって、厚生労働省は2002年時点でパート全体の賃金が9%押し下げられていると分析している〔大沢真知子『21世紀の女性と仕事』(左右社、2018年)など参照〕。
130万円を超えると夫の扶養を外れ、厚生年金や健康保険などの社会保険に自分で加入する対象となり、社会保険料を負担することになる。2016年10月からは一部、年収106万円以上で社会保険料が課されることになっている。ここでも基本的にはパート主婦は夫に扶養されるものである前提であることが分かる。
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