時給激安「パート主婦」はなぜ値切られるのか 結局「カフェラテ」を買う気にはなれない

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しかし、非婚化、離婚の増加、正社員雇用の減少などで、女性の世帯主も増え、男性の非正規雇用も増え、状況は大きく変わっている。それでは生活できない人が多くなっている。そして、同一労働同一賃金。働く時間が短い人とそうでない人が同じ仕事をしたのだったら、それはやはり同じように評価されてしかるべきだ。

もちろん正社員が背負っているものの大きさはあるので、たとえば週3回しか働けないのであれば、週5日働いている正社員の5分の3出すべきとは思わない。いつ夫の駐在が終わり、帰国してしまうかわからない駐在妻を現地採用や正社員とまったく同じ待遇にしてくれとも言わない。

そしてブランクが実際に業務に影響を及ぼしているのであれば、スキルを身につけるまでの試用期間は低賃金でもいいかもしれない。でも、成果が出せたらそれなりに評価してもらえるという展望があれば、働く側も努力するだろう。

働く駐在妻のコミュニティにいると、ともすると女性側からも「気の持ちよう」という見方が出てくる。つまり、「給料は少なくても、幅を広げる良い機会だから……」とか、「少しでも大人と話せるのがうれしいから、お給料は二の次」だとか、給料以外のところで得るものがあるとポジティブに受け止めよう!という言説が出てくる。

ポジティブシンキングは大事だとは思う。環境に謙虚に感謝することも重要だとは思う。でも、 価値を上げ、その対価を得ることができれば、企業にとっても働き手にとってもプラスな関係を築くことだってできる。それがないと、 「どうせこれくらいの時給しかもらっていないんだから」と、効率を上げるインセンティブも沸かない。そしてきちんと対価を求めていくことは、前回までに書いた「家事負担の女性偏重」の解決にも重要だと思う

女性の収入を上げる必要がある

日本人男性の家事・育児時間は国際的にも少ない。その要因としては、会社での労働時間が長すぎることなどが論じられている。しかし、女性側の「自分がやらなくちゃ」「自分はそこ(家事育児)で価値を出している」認知に訴えかけることも必要ではないか。それには、やはり子どもがいても女性の収入がきちんと上がっていくことが必要だと思う。

ある総合商社に同期入社で結婚した夫婦を取材したときのこと。彼らはまったく同じ初任給でスタートし、同じように昇給していったのだが、子どもができた途端に差が出てきた。まず妻が育休で1年休んだことによって年功序列の序列が1列下がった。そして育児分担が妻に偏ったことで、妻ばかりが子どものお迎えに行き、妻の手取りはさらに下がった。

加えて妻は将来の昇進可能性も下がったようにみえているために、夫が育児を担う機会費用はますます高くなり、「妻がやったほうが合理的」という状態になっていったという。こうして、妻の得手不得手や意志にかかわらず、ますます家事育児分担は妻に偏っていった。

もちろん、その役割分担がお互いにしっくりきている家庭までも変えるべきとは言わない。人生の一時期、役割があったり、それが入れ替わったりすることもあるだろう。しかし、夫婦間での家事分担を本気でやりたければ、女性の収入アップや経済的自立の確保が必要だ。それがない限り、女性たちは低い給料でそれに応じた家事分担をしないといけない気分になり、夫に抗議できず、家庭内でも弱い立場に置かれやすいという構造は断ち切れない。

中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

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なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

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