入試を歪めた文科省と私大の「不幸な関係」 補助金で迫る文科省、改革に及び腰の私立大

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その後、今年2月、佐野容疑者は自分の子どもが同大入試で、試験の点数を加算されて合格するという形の賄賂を受け取った疑いがある。ただ、試験の点数の加点だけでは、合格できる保証はない。加点されなければ合格できなかった状態があったとみられる。さらに、合格しても入学しなければ、学生になるという便宜は得られない。だから、入学したことまで含めて賄賂とみたと考えられる。

今年の入試で、4月に入学した後、7月4日逮捕というのは、東京地検の捜査は相当スピーディーだったといえよう。本稿執筆時点では詳細はまだ明らかにされていないが、大学内部の通報がないと、ここまで迅速な逮捕には至らないだろう。今年1~2月に大阪大学や京都大学などで発覚した入試の合否判定に影響する出題ミスは、公表されるまで約1年かかっていることと比べると、”裏口入学”の重大性を踏まえた捜査当局の短期の捜査のなせる業だろう。

しかし、ことは大学入試である。大学入試に関わる者は守秘義務が課され、情報漏洩は厳禁だ。大学入試は一般論として、採点する者、得点を集計する者、合否判定する者などがいて、人数は限定されているものの、複数の者が業務に関わる。その中に不正があれば、その不正を許せないと毅然たる態度で臨む人は、当然いる。

とはいえ、大学関係者としての邪推も入るが、守秘義務もかかるし、大学内では入試に関与していない者はそもそも入試関連の機密情報を知りようがない(知りたくもない)から、不正を暴くにも組織立って対応するのは容易でない。東京地検の手を借りないと明らかにできなかったことと思われる。

文科省が課した入試解答「公表」という要求

佐野容疑者は、2008~2009年には山梨大学副学長に就いていたから、大学の実務を知らないはずはない。そうした中で、この不正がばれないと考えていたとすれば、大学はずいぶんナメられたものである。不正によって、大学入試は歪められてしまった。

文部科学省から、大学側がナメられるにはそれだけの因はある。大学のガバナンスや大学入試事務での失態は、このところ数多く取り沙汰されている。

前掲の大阪大学や京都大学などでの大学入試の出題ミスが問題視された。受験生にとって、合否判定に影響する出題ミスは、人生を左右するだけに、再発防止は必須である。

この事態を受けて、文科省は6月5日、国公私立大学等に「平成31年度大学入学者選抜実施要項」を通知した。それは、2019年度入学生の試験から、「解答については、原則として公表するものとする。ただし、一義的な解答が示せない記述式の問題等については、出題の意図又は複数の若しくは標準的な解答例等を原則として公表する」ことを、各大学に求めるものだった。

この通知は、大学側に公開を義務付けるものではないから、判断は大学側に委ねられている。だからといって、大学側はこの通知を無視できるだろうか。今回の通知と大学向け予算は、表向き、何の関係もない。しかし、今回の受託収賄容疑のこともあり、予算を増やすも減らすも、文科省の権限に委ねられていることを思い知らされると、この通知に背いて入試の解答を公表しないとなると、何をされるかわからない。

もちろん、唯一の正解を想定した入試問題なら、それは公表できる。しかし、入試問題は、唯一の正解を想定した問題だけを出しているのではない。むしろ近年では、画一的な解答しかできない学生よりも、人と違う解答が出せる多様な人材を入学させたいとする傾向が、大学側には強まっている。

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