突然子どもに会えなくなる「虚偽DV」の悲劇 これまでは制度欠陥が「悪用」されてきた

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広子さんが警察を2度目に訪れた2015年6月から3度目の2016年3月まで、その間に差し迫った暴力の危険はまったくなかったのか。それについて梅村弁護士はこう説明する。

「2016年3月の県警の相談票には『引っ越します』とだけ記載されていました。実際、DV被害について広子さんから警察に説明することも、逆に警察から広子さんに聞くこともなかったそうです。県警は過去にDV相談の実績が存在すればどれだけ時間が経過しようとも『現在もDV被害を受ける危険性あり』という意見書を出してしまうのです」(梅村弁護士)

そういう意味でも今回の判決は画期的と言えるだろう。今後、支援措置の目的外使用というのはなくなっていくのではないだろうか。

判決を出した福田千恵子裁判長は『支援措置はDV被害防止目的のために用いられるべきもの』『支援措置の不正目的使用は社会問題。それは県もわかっているはず』と発言したという。つまりこの紛争を利幸さんだけの特別な事案ではなく一般化できる問題だと判断したということだ。

「これは地味だけれど現在支援措置の目的外使用により被害を受けている人すべてに適用できる画期的な判決。絶対維持しなきゃいけない判決だと思っています」(梅村弁護士)

相談内容の真偽にかかわらず支援措置が受けられる現状

ただし、この判決だけで警察が大きく変わるとは梅村弁護士は考えていないという。

「警察はDVの訴えが虚偽か否かを調査することよりも、コストや手間を優先するでしょう。門前払いした相談者がその後、被害に遭った場合、安くても数千万円以上という損害賠償請求を県は受けるかもしれません。そうなるぐらいなら、利幸さんのような支援措置悪用による被害者を作り続けたほうが55万円程度と安上がりですし、調査の手間もかかりません」(梅村弁護士)

仮に警察が支援措置の要件をしっかり吟味するようになったとしてもあまり期待はできない。被害者が配偶者暴力相談支援センターに相談するという別の方法があるからだ。ここに相談に行けば『相談証明書』という書類を必ずもらえ、これさえあれば、相談内容の真偽にかかわらず支援措置が受けられるという。

どう転んでも虚偽DVはなくならないのだろうか――。だが、梅村弁護士は光も見出している。

「救いだったのは福田裁判長が『加害者とされた者に反論する機会を与えるなどDV防止法の制度の根本を見直したほうがいい』ということを判決に書いてくれたことです。本来、男性女性関係なく、DV被害者は保護されるべきですし、制度を悪用する者はそれが女性であっても厳しく対応されるべきです」(梅村弁護士)

最後に当事者の利幸さんに、今後この問題をどのように解決していきたいかを聞いた。

「判決にもあるとおり、法制度を変えてほしいと思います。これは僕だけの問題じゃない、誰にも起こりうる問題なんですから。娘にとっては母親だけでなく、父親やほかの親族も大事な存在ですし、大切な財産です。制度を悪用してでも子どもを支配下に置いた者が優先される世の中ではなく、父母に祖父母、いとこたちという、静香が大好きな親族たちにいつでも会える環境をつくってやりたいです。それが親としての子どもに対する本当の責任・義務だと思っています。養育費を支払うことだけが父親の義務ではありません」(利幸さん)

4月末に判決が出たのと同じ月に、実は支援措置が延長されていた。そう考えると、利幸さんが損害賠償に勝訴したからといって、自動的に会えるようになるというわけではないのだ。利幸さんと静香ちゃん、そして広子さん。3人が納得し、円満な形で会えるようになることを私は祈っている。

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