世界中で急激に進む少子化にどう向き合うか 日本は先に対策を積み上げて発信できる

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では、2065年に100億人を超すといわれる「地球の人口爆発」は、どこで起きるのか。いわゆるサブサハラ、外務省の『開発協力白書』では「根強い貧困や経済格差、インフラ整備の遅れや低い農業生産性、産業人材の不足の問題を抱えて」いるとされる、アフリカ南部の諸国である。サブサハラ地域の出生率は、以前より低下しているとはいえなお4.8という高い値である。

ロバート・マルサスは『人口論』(1798年初版)で、貧困の発生が構造的であるとし、その理由は、農業生産は算術級数的にしか増えないのに、人口は幾何級数的に(いわゆる複利で)増えるためだと論じた。サブサハラのように1世代ごとに2.4倍のペースで増えれば、人口爆発は必然である。

しかし、逆に言えば、このサブサハラを除けば、地域単位で見て人口が大きく増加するところはほとんどない。世銀の統計で地域別に見てみると、EU(欧州連合)諸国は1.6、北米とアジア・太平洋は1.8で、ラテンアメリカは2.1、中東・北アフリカでも2.8にとどまる。

飢餓の心配がなくなると出生率は大きく下がる

死語となった不適切な表現であるが、あえて引用すると、過去の俗諺(ぞくげん)に「貧乏人の子だくさん」というのがあった。この物言いの是非は別として、生活水準と産児数が負の相関を持つことは、人間の生物学的特性に基づく事実であると考えられる。マウスなどの動物を、実験下で食料不足の状態に置くと、多産化する傾向が認められる。

栄養が十分取れる環境では少数の子を産み大切に育て、そうでなければなるべく多く産むことは、哺乳類の多くにとって種の存続のため合目的的な面があることは否めない。

これを裏付けるように、生活が豊かで安定すれば少産化し、貧困状態にあれば多産になる傾向は、時代と地域を横断して広く人類社会にみられる。一般に、時と場所を問わず人類に共通して生じる特性は、本能に組み込まれている可能性が高い。

この傾向は、飢餓と特に相関しており、飢餓を経験すれば多産、しなければ少産と単純化できる。飢餓の心配のないレベルになると、少子化が進む。世界各地で、出生率が減少している根本的な要因である。飢餓を脱してのち、それ以上さらに豊かになることは、相対的には少子化要因として大きなものではない。

これを裏付けるごとく、新興国を含む多くの国で、21世紀に入って出生率は横ばいもしくは低下して推移している。

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