佐川氏不起訴の病根は、日本をどこに導くか 処罰感情を社会の改善に生かす知恵が必要だ

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「刑事訴追の恐れ」を理由にことごとく証言拒否したのに、結局は訴追されなかった。(写真:ロイター/Toru Hanai)
本記事は第1・第3水曜日にコラム「ソロモンの指輪〜『本能と進化』から考える」を書いている蟹分解さんによる番外編です。刑法は人間の本能的な善悪観に根ざしながら、近代化する中で理に基づいて形成されてきました。検察審査会はどのような判断をするのでしょうか。

 

森友学園への国有地売却と、関連する財務省の文書改ざん問題について、大阪地検特捜部は5月31日、佐川宣寿前国税庁長官ら38人を不起訴にした。しかし、世論には起訴を求める声があり、わだかまりは残る。なぜであろうか。この問題を読み解くカギは2つあると筆者は考えている。1つは、本年3月27日の佐川氏の国会証人喚問、今ひとつは、2009年のいわゆる「郵便不正事件」である。

3月の証人喚問で佐川氏は、「刑事訴追の恐れ」を理由に、50回以上証言を拒否した。このときの態度を見て、国民の知る権利を尊重する姿勢に欠けると感じた人が多いだろう。共同通信の電話調査によると、証言に「納得できない」とした人は72.6%にのぼる。

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訴追可能性が答弁拒否に使われる一方で、実際に訴追はない、となったのだから、何か割り切れない。だからといって、不起訴になったから改めて国会証言を、などとは誰も望まない。そうすると、疑惑追及をかわしたい佐川氏としては、「刑事リスク」という危難をうまく逆手に使って、絶妙の結果を得たことになる。

長引く森友問題に、辟易している国民は多い。安倍晋三首相を批判する人と、擁護する人との間では、非難の応酬が見られ、米トランプ問題や英ブレクジットと同種の国民の分断が、わが国にもあると認識させられる。安倍擁護派と批判派の意見はほとんどの問題で対立するが、森友問題などに国会審議の時間が浪費されていることへの不満に限れば、一致があるかもしれない。本件の場が国会から司法に移ってくれれば、どちらにとっても、現状の継続よりマシではないか。

佐川氏不起訴の背景に、10年前の村木氏冤罪事件

だが、大阪地検特捜部は不起訴を決定した。なぜ、法廷に場を移して是非を問うことはできないというのか。それを考えるヒントは、10年近く前、同じ大阪地検特捜部に起きたいわゆる「郵便不正事件」にあるといえば、唐突感があるだろうか。

2009年6月、厚生労働省雇用均等児童家庭局長の村木厚子氏(その後、事務次官となった)は、のちに冤罪と判明する事件で、大阪地検特捜部に逮捕され、翌月起訴された。この事件は、取り調べや証拠の取り扱いに多々問題があり、さらに、検察内部で「最低でも村木氏までやりたい」「君のミッションだからな」といった、あらかじめ特定者の検挙を目的とするやり取りがあったことが判明している。

なかでも異常なのは、村木氏の嫌疑と日付が整合しない文書記録が証拠ディスクにあった事実を、主任検事が知っていた点である。主任検事はこれを秘匿して起訴し、後日露見するリスクを感じると、個人的に有していたソフトウエアを用いて、日付を改ざんするという挙に出た。2010年9月、村木氏の無罪判決の後、10日余りで、この主任検事は証拠隠滅罪で逮捕され、さらにこれを隠蔽しようとした上司も犯人隠避で逮捕される(のちにいずれも有罪)。事件は極めて異例な展開をたどった。

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