「葛藤」の本能を経営の意思決定に応用しよう 「相反する要請の衝突」が本能を進化させた

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さて、話を変えて、会社における意思決定を考えてみよう。ガバナンスの観点で、外部チェックや内部監査、部門間牽制などさまざまな検証の仕組みが導入されているのは、組織に葛藤のメカニズムを取り入れるものと考えられる。葛藤の基本構造を、アクセルとブレーキを同時に踏むものと理解するなら、執行がアクセル、統制システムがブレーキに当たる。執行に対するチェックを強化すれば、葛藤が生まれる。これは効率面では阻害要因である一方、経営行動を誤らないために有益である。問題は、どのような種類の問題に葛藤メカニズムを取り入れ、どのような問題には取り入れないのがよいか、という判断にある。

M&A(企業の合併・買収)や新規事業進出、体制の変更、基幹システムの改廃など、経営上極めて大きな影響を持つ事項の決定においては、誤った判断の回避が効率以上に重要である。こうした問題にはぜひとも葛藤のメカニズムを取り入れるべきである。外部チェックを含め、幅広い観点で検証を行う必要がある。西洋にDevil’s Advocate(悪魔の代弁者)の語があるのは、古来重大事に葛藤的システムが有用と認められていた証左といえよう。ちなみに語源はラテン語のAdvocatus Diaboliで、カトリック聖者の認証で批判を割り当てられた者の役柄から転じ、ディベートの反論者を指す。

日常に「葛藤」を持ち込んではいけない

一方、大きな判断の節目ではなく、日常的なオペレーションに葛藤の構造を入れることは、まったく別の話である。これは益が少なく非効率であるほか、当事者のモチベーションに悪影響を生じる。ところが、この種の葛藤は珍しくないようで、「敵はライバル企業じゃない、社内だ」といった迷言はよく聞かれる。ひところ、特に各社の海外オペレーションで、現場から本部に対して「OKY(「おまえがここに来てやってみろ」の頭文字)」と批判することが流行した。しかし、それが実現しても、やってきた元本社社員が、現場からまた同じ文句をいうだけなので、組織全体から見れば別段の益はない。この種の不平不満をなくすには、葛藤の構造をなくすのが最良の解決策である。

真に重大な決定には、検証システムを用い、反対意見を幅広い視点から集めたうえで、葛藤プロセスを経て判断を行うこと。そして、日常的なオペレーションでは、極力ベクトルをそろえ、葛藤=摩擦を避けること。このようなことが自然に図れる制度設計が有益である。

残念ながら、世の企業の盛衰を見ると、逆に、日常業務には細かなチェックがある一方、重大事は権力者の一存で決定、という例が多く見られる。

昼食の店を選ぶのに長時間かけて熟慮し、結婚相手は見ず知らずの人を衝動で選ぶ、といったことは、誰しも避けたいであろう。だが、ビジネス判断を重要性で区分し、それぞれに適した統制を加えることは難しい。意図して設計しないと、先述のように、些事にチェックが集中し、大事がいつの間にか決してしまうという陥穽(かんせい)が待つ。

企業経営にあっては、どこに葛藤メカニズムを入れるかを、重要問題と認識し、組織設計の際に熟考すべきだろう。

蟹分 解 恐竜研究家

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かにわけ さとる / Satoru Kaniwake

本名は星野明雄。伝統的経済学が実体経済を説明できないことに失望し、早稲田大学政治経済学部を中退。行動経済学や認知心理学などを学んだ後、動物行動学に基づき経済学を再構築する独自研究に到達。東京大学理学部数学科卒、米ペンシルベニア大学修士。在学中n×n×nルービックキューブの一般解を発表。金融業界大手に勤め、新商品開発や海外進出などを担当した後、中堅企業役員などを経て、現在、恐竜研究の有段者を僭称(自称アマ二段)。独自の「ブラキオサウルス短腕説」を唱える。

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