上野千鶴子先生、働く女は幸せですか? 日本の女たちを「不良債権」にしたのは誰か

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何度も言うけど、女は適当なところで、辞めてくれると思っていたからね。だけど、実際のところ、子育ても介護も、一過性でしょう。一生、背負うわけではないじゃない。今は、短時間勤務制度(時短)を取得している女たちも、子どもが成長すれば時短を外して、フルに働く機会が何年か経てばやってくる。

人口学的に考えれば、この女たちが何歳で産んで、何年経てば、子どもが何歳になるかなんてすぐわかるはずなのに、企業は、一度時短を取った女には再チャレンジさせない。

基本的に、企業は育児や介護中の従業員が、職場に出たり入ったりできる仕組みを整えるべきなの。従業員のライフステージに応じて、変更可能な柔軟なシフトが組める「多元的なキャリアパス」を用意すれば、出産による離職も、マミーズトラックで塩漬けのワーキングマザーも減りますよ。

会社より私事を優先した“罰”

――そもそも上野さんは、ご本の中で、9時5時シフトでは子育てと仕事は両立しないことは、とっくにわかっていると書いていらっしゃいます。

 

はい、そうです。北欧諸国がそうですが、時間短縮勤務(時短)を取り入れたところから、出生率は上がっています。北欧では、ワーキングマザーの時短勤務が、会社にとっても社会にとっても不利益になっていないわけ。

ところが、日本企業は、女性社員が育休明けに時短をとったり、それどころか育休を取っただけで査定を下げるでしょ。口では「いや、ウチは下げません」と言っても、やっぱり下げるじゃない。

育休や時短をとる権利があっても、行使すると、ペナルティを与えるのが会社なのよ。会社より、私事を優先したとして罰を与えるの。

――そして、一度査定が下がると、そのままずっとはい上がれなくなる、と。

根本的な問題は、日本の企業の、人材査定評価システムが機能していないことよ。どこもちゃんと、個人ベースの能力評価をやっていないじゃない。一般職と総合職の転換制度がある組織だって、その前提となる人事評価がろくにできていないのだから、会社と雇用者の意思確認もへったくれもなく、有名無実化しているじゃない。日本の会社は基本、年齢と職務と給料が一致するという、最低のシステムでしょ。

――もっとも、この10年でどの会社も個人ベースの評価「目標管理制度」を導入しています。

世の中がやっているから、とりあえずやっているだけでしょ。そんなの、昇進する人を見ていればわかるじゃない。全然、前と変わっていない。

私は『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』という本を読んで、日本の組織で出世する人は、学閥と序列で決まるということがつくづくわかったの。日本の組織は、「抜擢」や「実力主義」が本質的に嫌いだってことがね。

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