台湾経済の最大の課題は内需拡大だ--蔡英文・台湾民進党主席
2008年1月の立法院(国会)選挙で大敗。さらに同年3月の総統選挙で、対抗馬の国民党・馬英九氏に敗れ、政権の座を明け渡した台湾・民主進歩党(民進党)。1986年の結党以来、台湾の民主化をリードしてきた民進党だが、8年間にわたる政権実績、特に経済政策が支持されず、陳水扁前総統のスキャンダルも重なり、結党以来の満身創痍の状態にある。
そのいわば、結党以来の最大の危機に直面した民進党が、トップの主席に選んだのが蔡英文氏だ。最大野党として、現政権の経済政策や中国、対日関係をどう見ているのか。堅調だった台湾経済も世界経済の混乱を受け減速、現在の馬政権の支持率も急落している。台湾にいま求められる政治・経済的課題は何か。蔡主席に単独インタビューした。
--世界経済が不調になっており、台湾も経済的な問題を抱えている。まずこれについてお考えを聞きたい。
たしかに今回の政権交代はちょうど世界の経済・金融情勢の変化という状況の下で行われたが、すでに馬英九政権の経済問題への対応は、市民の信頼を低下させている。これは、世論調査の数字にも表れているが、これほど短期間で支持率を大きく下げた大統領も少ないだろう。
彼の台湾経済運営には、まず第1に、選挙戦期間中、世界経済の悪化が発生することを予測すべきだったことが問題だ。そのため、経済の青写真、経済の見通しをあまりにも楽観的に示してきた。選挙の期間、一般の有権者の期待は非常に高かった。特に3月22日の選挙終了から5月20日の就任までの期間、多くの人が株式市場に参入した。株に投資を行い、さらには不動産にも投資した。しかし彼らは、この時点で国際的な経済情勢はすでに悪化の途上にあることに注意を払わなかった。
もちろん彼の管理能力には、以前から疑問視されていたが、とくに株に投資している人が彼に対して非常に不満を示していることだ。短期間での大幅な下落は、台湾市場で顕著だ。
第2に、彼が就任以来、発表してきた経済政策のうち、一部はすでに効果がなく、また矛盾している政策があるということ。さらには、財政・経済部門の閣僚たちが自らの政策を説明するたびに、問題を起こしている。このため、このため、政府の経済問題の処理に対する信頼は崩壊している。
現在、台湾の経済指標はほぼすべてがマイナス。過去にもあったが、それは輸出で埋め合わせていた。だが、いまは輸出もマイナス。台湾経済は自身を失っている。
--馬英九政権の経済政策の骨子は、「対中関係の改善を通じた経済活性化」と「愛台12建設といった内需活性化」の2点だ。この政策についてどう考えるか。
「対中政策」と「愛台12建設」のうち、対中政策はこの数カ月以来、当初予想されていたほど有効ではないことが証明された。これには中国側の協力が必要だったが、その中国側は積極的ではない。さらに、中国側の協力を得るには、多くの政治的代償を払う必要があると誰もが疑うようになった。
馬英九政権の経済政策は、その効果が不透明で、さらに過度な政治的代償を払うことになる。そのため、対中政策は台湾経済にとって即効性のあるものではない、ということだ。誰もがすでに、これに大きな期待は抱いていない。
「愛台12建設」については、これも内需を拡大できるような即効性のあるものではない。この中身の多くが、総統選の際の票集めに協力してくれた者への報酬みたいなものである。
現状で最も問題なのは、内需の不足だ。内需不足を輸出によって解決してきたが、現在は輸出さえも衰退している。したがって、内需不足の状況の下で、消費を刺激することが必要だ。これが政府にとって、施政の重点であるべきだ。
--対中関係では、直行チャーター便の運航や中国からの観光客受け入れも始まったが、これについてどう考えるか。
われわれと中国との関係は、他の国と中国との関係と、経済面の本質で特別な違いはない。ただし、程度の違いがある。
中国は製造地点とすることができるし、市場でもある。これについては、誰にも異論はないだろう。しかし問題は、中国経済は北京オリンピック以降、不安定期に入ることだ。さらに政治も不安定期に入る。もし政治・経済体制の全体が不安定期に入るとすれば、われわれが過度にこの市場に近づく、あるいは過度に生産地点として依存するならば、不安定要素の影響を受けることになる。したがって、一定のファイヤーウオールを持つ必要がある。
台湾は容易に中国に過度に引き寄せられる。それは、われわれの文化や血縁、さらには地理的環境が、中国とあまりに近いからだ。このため台湾の経済は、台湾の不安定要素の影響を受けることになる。これは台湾にとって大きなリスクだ。中国との往来は、台湾にとって一定の経済的利益があるが、しかしリスクは非常に大きなものがある。特に台湾は彼らから非常に近いのだ。
経済面でのリスクが大きいほかに、例えば、国家安全上のリスクもある。中国は多くのミサイルの照準を台湾に合わせている。中国は台湾は自分たちのものと主張し、中国の軍事力は増強を続けている。中国と他の国との関係の中に、台湾は必ず巻き込まれる。つまり、われわれと中国との関係は、単純な経済関係ではない。多くの政治的な要素がその中に含まれている。
中国の台湾に対する経済政策は、多くの政治的要因の干渉を受けることが避けられない。つまり、われわれと中国との往来は、もう1つのコスト、つまり政治コストを払わなければならない。しかもその政治コストはますます高くなっている。
さらに台湾は、国家安全コストを払わなければならない。例えば、中国の観光客が台湾にやって来る。あるいは中国の資金が台湾に入って来る。さらには中国人が将来ここにやって来て就職する。われわれは、それに伴う国家安全上の問題について考慮しなければならない。このために、コストは上昇する。このため、われわれが中国と往来するためのコストは、経済でも社会でも、他の国よりも高くなる。
従ってこれは、慎重に処理しなればならないことだ。しかし、過度に期待したり、過度に楽観視したりしてはならない。
--では内需拡大で、民進党は何を主張しているのか。
まずは税の払い戻しで、これは即効性ある方法の1つだ。また、物価上昇に対する抑制策を行うよう主張している。だが、現政権はそれを行わず、高騰と暴落に任せている。高騰、暴落は人民の自信に対して大きな傷害となっている。人民の消費能力を向上させるには、税の払い戻しのほかに、消費能力が不足している人、あるいは基本的な生活を維持する能力が不足している人に対して生活補助を提供すべきだ。生活補助の支給方法はたくさんある。しかしこうした生活補助は、消費に使われなければならない。もらった生活補助が銀行に預金されてはならない。このため、さまざまな設計が必要だ。
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