台湾経済の最大の課題は内需拡大だ--蔡英文・台湾民進党主席
しかし私は、釣魚台は非常に重要だが、台湾と日本の戦略的利益に関する共同での思考はより重要だと考えている。
漁業問題については、漁業利益は「共通利益の享受」の一環である。その前提で、日本の漁民なのか台湾の漁民なのかを問わず、このエリア内での活動がどのような共同の規範を受けるのかを明確に規定しなければならない。日本はこの点でより積極的になるべきだろう。皆で話し合って規範を決めれば、衝突を減らすことができる。
--陳水扁政権がなぜこれほどスキャンダルにまみれてしまい、政権運営もうまくいかなかったのか。民進党はそれをけん制できなかったのか。
民進党は陳水扁総統が政権を担当していた期間、基本的に彼1人の指導に服してきた。多くの人が自分の判断を放棄してしまった。この時期、政党としての民進党は、陳水扁政権のシステムの中に吸収されてしまった。このため、民進党の存在が効果をなくしてしまった。
今後、党には自分自身の思考、自分自身の運営が必要だ。つまり、われわれが政権を担当する期間、政権運営に欠陥があれば、党がいつでも監督し、バランスを取ることができるようにするのだ。
これまでの政権担当時期には、党が政府によって吸収されてしまった。政府の最高のポストは総統だ。このため彼1人の思考が、民進党全体の成敗に影響を与えたのだ。これが将来、われわれが設計と運営において特に注意しなればならない点だ。
現在、そのような党にするためにシステムを再建しているところだ。これまで、党は選挙マシンにすぎなかった。これからの党は、民進党全体の支持者の核心だ。このため、われわれは政策的思考を行い、組織を行い、政権党との間で攻防を進めなければならない。
つまり、台湾主体意識の強い有権者全体の、あるいはそうでなくても少なくとも選挙で民進党に投票した有権者の基本的な指導部となるべきだ。そのためには、党の機能を強化しなければならない。在野勢力を指導する政党であるには、多くの人材が必要だ。そして、一定の資源が必要だ。そうすることで、在野勢力を指導する核心としての機能が発揮できる。
--陳水扁政権時代、なぜその理想を完全には実現できなかったのか。
その方向に進めたが、完全に実現させることはできなかった。その原因は主に、われわれにとって初めての政権担当だったことだ。正直、経験不足、人材不足だった。
また、民進党は一度も立法院(国会)を掌握できなかった。このためわれわれが政策を処理する際、しばしばボイコットを受けた。さらに、台湾の政治体制が改造されていなかった。現在の政治体制は、中国の「中華民国体制」を引き継いだものだ。何層にも重なった非常に大きな政府の体制を、この小さな台湾に適用したものだ。この体制は、小さな経済体にはふさわしくない。小さな政治体であれば、臨機応変の運用ができるはずだ。従って政府の改造は優先的に考慮すべきだ。
--党の改造のために、どこから着手しているのか。
われわれには党綱領があるが、それぞれの時期に応じてさまざまな「決議文」によって党綱領を解釈している。それぞれの時期の「決議文」は、それぞれの時期の必要を反映させ、党綱領をどのように解釈するかという内容が盛り込まれている。民進党は非常に柔軟性を持った政党だ。従って、党全体のシステムまたは体質を改造するのに、必ずしも党綱領を調整する必要はない。ただ、こうした前提の下で、どのレベルで党綱領の新しい解釈を表現する必要があるのか、これについてわれわれは思考しているところだ。
従って、民進党に必要なのはこの党の組織体をより完全なものにすることだ。そしてより多くの人材をこの組織体に取り込み、より戦闘力のある組織体にしなければならない。これが最も重要なことだ、
われわれとしては、各種の選挙で勝利することを希望している。それによって地方でも中央の民意機関でも、より大きな力を発揮する機会を持つことができる。そのため、人材が非常に重要だ。若い人材にさまざまな経験を積ませ、将来、政権に復帰した時、十分な人材を使えるようにしたい。
さらに、われわれは自分たちのすべての政策を検討する。政権運営時代の政策、それが党の基本的な価値とどれだけの差があるのか。これをどう調整していくのか。どのように調整すれば、現在の社会の需要に対応することができるのか。こうしたことに現在着手している。
--馬英九政権が中国との関係について採用しているのは、「92年コンセンサス(九二共識)」、つまり「1つの中国、各自解釈(一個中国、各自表述)」の考え方だ。現時点で、中国との関係を改善するにはこの考え方しかないのだろうか。
国民党の認識は、「92年コンセンサス」を受け入れなければ対中関係の発展はないというものだ。私はこれに同意できない。われわれは「1つの中国(一個中国)」原則を受け入れてはいない。だが、双方には一定程度の対話があった。
民進党政権時代、急進的すぎると見えるような動きも一部合ったが、われわれは台湾海峡両岸の安定を維持してきた。両岸間の関係を次第に正常な軌道に乗せていった。そのため、私は「1つの中国」原則あるいは「92年コンセンサス」を受け入れることが、台湾にとって唯一の道だとは思わない。主権を犠牲にして平和の目的を達成するのであれば、その政府は能力がある政府だとはいえないだろう。主権を犠牲にすれば平和が得られることは皆が知っているが、これは最も怠惰なやり方だ。
主権を犠牲にしない状況の下で平和安定を維持することこそ、1つの国家の政府が行うべきことだ。しかも彼らの「92年コンセンサス」は、国民党が伝統的に言ってきた「1つの中国、各自解釈」よりさらに悪い。国民党が「1つの中国、各自解釈」が「92年コンセンサス」だというのなら、なぜ「92年コンセンサス」を受け入れなければならないのか。「1つの中国、各自解釈」を受け入れればそれでよいではないか。
つまり、「92年コンセンサス」というのは、実際には中国の主張する「1つの中国」原則に傾倒したものだ。中国は「1つの中国、解釈しない(一個中国、不表述)」という立場だ。
--陳水扁・前総統の「それぞれ1つの国(1辺1国)」の主張は、中国側に受け入れられなかった。
われわれはこの問題を必ず解決しなければならないのだろうか。われわれは、台湾が1つの国家であると主張している。われわれは、相手が台湾を1つの国家として承認してほしいと願っている。もし今のところ承認したくないなら、それはそれで構わない。しかしそれで直ちに戦争が発生するとか、往来が断絶することを意味するものではないのだ。
つまり、世界にはただちに解決できない問題がたくさんある。しかし皆の共同の責任は、この地域の安定を維持することだ。この地域の安定を維持するために、台湾だけが代償を払わなければならないのでは不公平ではないか。これは皆の共同の責任ではないか。米国や日本、さらにはすべてのアジア諸国の共同の責任ではないか。しかし主権の上で代償を払っているのは台湾だけだ。他の国は代償を払っていない。
【蔡英文】
1956年生まれ。台湾大学法律学科卒業、アメリカ・コーネル大学法学修士、英ロンドン政経学院(LSE)法学博士。帰国後は経済部(省)国際経済組織首席法律顧問、政治大学、東呉大学で教授。1990年代後期に当時の李登輝総統の顧問となり、李登輝・前総統が1999年に提出した両岸「二国論」(台湾と中国は特殊な国と国の関係)の起草者といわれている。
民進党政権誕生後、行政院大陸委員会主任委員(大臣)に起用され、対中国政策を担当。2004年に民進党入党、同年の立法委員(国会議員)選挙の比例代表制全国区で当選。2006年に行政院副院長(副総理)。
(撮影:黄威勝)
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