野球投手を悩ませ続ける肩・ひじのケガ問題 痛みや故障なく投げることはできるのか?

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しかし、高校野球でもプロ野球でも、投球過多はいろいろなところで見られる。2013年春のセンバツでは、安樂智大(済美→楽天ゴールデンイーグルス)が5試合で772球を投げたことがアメリカでも話題になった。プロ野球でも、タイガースの藤浪晋太郎が2016年に、1試合で161球を投げたことが議論を呼んだ。

「大事なことは、正しい投げ方を身につけること」だと西本は言う。

故障しないことと正しい投げ方のジレンマ

ここに難しい問題が横たわっている。

正しい投げ方を身につけるためには投げるしかない。50球や100球を投げたところで、故障をしない正しいピッチングフォームは手に入らない。

FA移籍後、ドラゴンズで1勝も挙げることができなかった川崎はこう断言する。

「故障しないことだけを考えれば、ボールを投げなきゃいいんです。これがいちばん簡単。投げなければ痛めることはありません。『どうすれば故障しないで投げられるか』と聞かれたら、『故障は絶対にしますよ』と答えています。特にプロ野球を目指すような子どもは、いつか壊す可能性が高い」

プロ野球は高校野球以上に過酷だ。3月下旬から10月までで143試合を戦うが、開幕前には一軍メンバーを決めるオープン戦があり、ペナントレースのあと、上位チームにはクライマックスシリーズ、日本シリーズなどシーズン以上に厳しい戦いが待っている。時代は変わっても、なかなか「痛い」と口にすることはできない。

肩やひじを壊すことなく、投げ続けるためにどうすればいいのか?

川崎は自身の体験を振り返りながらこう言う。 

「より高いレベルで戦うにあたって、故障しないというのは無理なんです。故障することを怖がっていたら、プロ野球選手としては何もできない。高いレベルには行けないと思います。投げなさすぎるのもダメだし、投げすぎるのもダメ。ピッチャーが故障しないためにどうすればいいのか、それは本当に難しい。

自分にとっていいことを探すしかないけど、答えはなかなか出ません。肩やひじが壊れる覚悟を持ったうえで、自分なりの方法を見つけるしかない」

自分に代わるピッチャーはチームの中にいくらでもいる。この現実がピッチャーをさらに苦しめる。

国の威信をかけて戦う国際大会になれば、なおさらだ。2006年に初めて行われたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の日本代表に選ばれた石井は当時をこう振り返っている。

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