野球投手を悩ませ続ける肩・ひじのケガ問題 痛みや故障なく投げることはできるのか?
ここ数年、高校野球の風景は変わった。
強豪校にはエースだけでなく、エースと並ぶ実力を持つピッチャーが一人か二人はいる。試合開始と同時に、ブルペンで控え投手がピッチングを始める姿もよく見るようになった。
先発投手が最後まで投げ切ることが少なくなったのは、勝利を得る方策として複数エース制を敷くことが多くなったから。かつてのように「エースと心中」する監督はまれだ。
今春のセンバツからは延長13回からのタイブレーク制も導入された。いずれは投球回数の制限や連投禁止がルールとして定着するかもしれない。関係者の努力もあり、肩やひじを痛めるピッチャーは減少することだろう。
では、投球制限と連投禁止によって、ピッチャーの肩やひじの故障がなくなるのか? ピッチャーが肩やひじを痛めないで投げ続けることはできるのか?
拙著『どん底 一流投手が地獄のリハビリで見たもの』の中で、プロ野球で活躍した6人の一流選手の体験、証言をもとに、この答えを探した。
話を聞いたのは森慎二(元埼玉西武ライオンズ)、石井弘寿(元東京ヤクルトスワローズ)、斉藤和巳(元福岡ソフトバンクホークス)、川崎憲次郎(元中日ドラゴンズ)、野村弘樹(元横浜DeNAベイスターズ)、西本聖(元読売ジャイアンツ)。
いずれも高校時代から野球の強豪校でエースを任された選手ばかりだ。猛特訓が当たり前だった昭和の野球では、指導者に「痛い」と訴えることは難しかった。過剰とも言える投げ込みと、大会や練習試合での連投によって、体でピッチングを覚えた。
能力が高くケガに強い選手しかプロに行けない
肉体的にも精神的にも強い者しかプロ野球選手にはなれない。肩やひじが弱ければ、プロ野球関係者の目に留まる前に消えているだろう。能力が高くても、故障歴があるためにドラフト指名から漏れた有望選手もたくさんいる。
この6人の中で最多のプロ通算504試合、2677イニングを投げた西本聖は引退するまで、肩もひじも痛めたことがなかったという。阪神タイガース、千葉ロッテマリーンズ、オリックス・バファローズで投手コーチを務めた名伯楽はこう言い切った。
「肩やひじを痛めるのは、その部分に負担がかかっているということ。無理をしているということです。簡単に言えば、正しい投げ方をしていないから、そうなる」
さらにこう続けた。
「ピッチャーが肩やひじを壊して二軍に落ちるのはコーチの責任です。コーチはそれをしっかりと認識しないといけない」
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