信用力指標年次調査:02年度以来の改善傾向が終息、収益性横ばいも有利子負債関連が悪化《スタンダード&プアーズの業界展望》

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事業法人・公益事業格付部
アナリスト 本名 淑恵
主席アナリスト 小林 修

スタンダード&プアーズは、このほど日本の事業会社の信用力指標の年次調査を実施した。格付けを付与している日本企業(総合商社、金融機関とノンバンクを除く)111社に、日本株の包括的な株価指数である「S&PJapan 500」のなかから、「TOPIX150」と「Mid100」の構成企業(総合商社、金融機関とノンバンクを除く)を抽出して加えた計230社を対象に、過去5年度(2003−2007年度)の信用力指標の推移を分析した。

2007年度(大半が2008年3月期)の信用力指標は、総じて前年度と同程度の水準となったが、有利子負債関連の指標は小幅ながらも悪化した。調査対象全社ならびに格付け先企業の主要5指標の中央値は、2005年度、2006年度と改善ペースが鈍化していたが、2007年度の調査結果により、2002年度から続いていた改善傾向の終息が示されたといっていいだろう。

2007年度は燃料や原材料の価格高騰、米サブプライム・ローン問題を発端とする米国景気の悪化や国内消費者心理の冷え込みなどが、特に下半期の企業収益にとって大きな重しになったと考えられる。しかし、収益指標に目立った悪化は見られない。過去数年の間に多くの企業が事業再編や構造改革に取り組み、事業と財務の両面で基盤強化を進めてきた結果、外部要因への耐性が全般に高まり、収益性指標の悪化が抑えられたとみている。

一方、有利子負債に対する営業キャッシュフロー(運転資本の増減調整前ベース、FFO)の比率や総資本に占める有利子負債の比率など、有利子負債関連の指標は悪化した。主因は有利子負債の増加と考えられる。過去数年にわたって事業再編、構造改革、有利子負債の削減などを進め、収益・財務体質の改善に一区切りつけた企業が、中長期的な成長戦略として設備・事業投資を積極化する傾向がより強まったことが背景とみられる。実際、少子高齢化に伴う国内市場の縮小が始まったなかで、需要の伸びが見込める新興国市場への進出、高付加価値事業へのシフト、設備の増強・更新による合理化などの施策に乗り出している企業は多い。

2008年4−6月期の企業収益において、原油高、円高、景気後退などの影響が強まっていることなどを踏まえると、日本の事業会社の信用力指標には全般に悪化圧力がかかっていると考えられる。外部環境の早期改善が見込みにくいなか、ここ1−2年で積極化してきた投資の回収に従来の各社の想定より長い時間がかかる可能性が高まりつつあるためだ。

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