信用力指標年次調査:02年度以来の改善傾向が終息、収益性横ばいも有利子負債関連が悪化《スタンダード&プアーズの業界展望》
資本・負債構成の改善にもブレーキ
総資本に占める有利子負債の比率の中央値については、2006年度まで改善基調が続いていたが、2007年度は小幅ながら悪化した。設備投資の積み上げにより有利子負債が増加した一方、株価低迷や、自社株買い・増配などの株主還元策の積極化などにより、自己資本の増加幅が縮小したことが要因としてあげられる。
業界別にみると、通信では着実な有利子負債の削減を反映して改善傾向が続いている。エレクトロニクス・電気機器では、競争激化による収益の圧迫により自己資本の蓄積が制約されたことなどを主因に若干悪化したものの、依然として良好な水準を維持している。一方、大規模・長期の再開発案件投資を含めた開発投資を積極化させた不動産では悪化した。
足もとで格上げペースは鈍化
スタンダード&プアーズの格付け動向をみると、日本の事業会社では2003年以降、格上げ件数が格下げ件数を上回って推移している。2006年は格上げ27件、格下げ6件、2007年は格上げ45件、格下げ1件と、格上げ件数が格下げ件数を大きく上回ったが、2008年に入ってから9月末までをみると、格上げが8件、格下げが3件と依然として格上げ件数が上回っているものの、格上げ件数は急減している。格上げは事業環境など外的要因の改善よりも個別の財務改善を主因とするものが多くを占め、一方の格下げはM&A資金の有利子負債調達による財務内容の悪化懸念を主因とするものが目立った。
信用力指標の改善傾向の頭打ちは、アウトルック変更の内訳にも表れている。長期会社格付けの向こう2年程度(「BB+」以下の場合は1年程度)の見通しを示す「アウトルック」の2008年に入ってから9月末までの変更(格上げ、格下げに伴うアウトルックの変更を除く)は、上方修正4件に対し、下方修正10件と、下方修正がやや優勢である。
信用力指標は今後悪化する可能性も
原油や原材料価格の高止まりに加えて、海外事業拡大による為替リスクの増大、米国をはじめとする世界的な景気後退懸念など、日本の事業会社を取り巻く不透明要因は多い。足もとでは、2007年度と比較して収益への下方圧力は高まっており、業績の下振れが懸念される状況にあることから、2008年度の信用力指標は総じて悪化する可能性もあるとスタンダード&プアーズはみている。
しかし、日本の事業会社のキャッシュフロー創出力が全般的に強化され、利益の積み上げによる自己資本の拡充が進んできたことなどを踏まえると、想定を大きく超えるような外部環境の悪化や、大幅な財務方針の変更などがなければ、中長期的な事業基盤の強化を視野に入れた投資をこなしつつも、格付けは安定的に推移する可能性が高いとスタンダード&プアーズは考えている。
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