右上肢障害の24歳陸上選手が一段目指す高み 「パラアスリートでトップ」では満足できない

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芦田:リオまでは、右と左にそれぞれ軸をイメージして、体を振りながらそのバランスをそろえるような走り方を心掛けていました。しかし、これは自分にとっては心地いい走り方だったのですが、データを測定してみると、推進力にはつながっていないことがわかったんです。それなら極端な話、両手を後ろで縛った状態でも速く走れるようになれば、それがいちばんなのではないかと。これが1軸の考え方です。

芦田選手の行う体幹トレーニングのメニューの一部

乙武:なるほど、そのために強靭な体幹が必要となったわけですね。つまり、1軸で走る完成形をイメージして、そこから逆算し、必要な要素を自身に上乗せしていく努力をしている。これほど抜本的にトレーニング方法を変更するのは、とても勇気のいることだったのでは?

芦田:おっしゃるとおりです。これはスポーツに限らないのでしょうが、逆算して目的に向かおうとすると、果てしない道のりになりがちなので、気持ちが折れるリスクもあると思います。それでも頑張れたのは、「健常者に負けたくない」という強い気持ちがあったからです。実際に腕を縛って走ってみることもありますよ(笑)。

乙武:僕はこれまで多くのパラアスリートと接してきましたが、「健常者に負けたくない」と明言する選手とは出会ったことがないので、正直、度肝を抜かれる思いです。

芦田:決してパラ競技を低く見ているわけではないんです。ただ、僕は一流のパラアスリートではなく、一流のアスリートになりたい。それだけなんです。

生き方よりもアスリートとしての結果に注目してほしい

乙武:この冬は海外でトレーニングを積んでいたそうですが、そうした努力は着実に結果に表れていますよね。たとえば100メートル走のタイムで見れば、リオパラリンピックの時点では11秒80だったのが、今年3月の「第10回 2018WPAドバイグランプリ」では、なんと11秒42で自己ベストをマーク。これはまさに、強いモチベーションと向上心の賜物でしょう。

芦田:ありがとうございます。ただ、これはすべてのパラアスリートに付きまとう悩みだと思うのですが……。健常者アスリートは、純粋に競技を通してシンプルに感動を与えることができます。ところがパラアスリートの場合は、どうしても物語が1つ乗っかってしまいますよね。競技以前に障害を背負った経緯やこれまでの生き方が注目されがちで、ともすればどこかタレント的な見方をされることすらあります。でも、僕はタレントではなくアスリートでありたい気持ちが強いので、もっともっと高みを目指さなくてはなりません。

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