芦田:充実感が減ったかもしれないですね。なにしろパラアスリートとしてはトップだった記録が、健常者の中に並ぶととても褒められた順位にならないわけですから。
乙武:なるほど。自分を褒めてやれる機会も減ってしまう。
芦田:でも、だからこそ価値のあるチャレンジなのかな、とも思います。
今わかった「お前は障害に甘えている」の言葉の意味
乙武:現在、指導を受けている礒繁雄コーチとは、早稲田大学競走部時代に出会ったそうですね。こうして長く師弟関係を続けてこられたのは、何か秘訣がありますか?
芦田:高校時代は正直、パラ競技では大して追い込まなくても結果が出せていたので、なめていた部分がありました。ところが大学に入って礒コーチから、「お前は障害に甘えている」と指摘されて、衝撃を受けたんです。最初は反発心もありましたけど、初対面でそんなことを面と向かって言う人はいなかったので、面白そうだなとついていった感じです(笑)。
乙武:まだ関係が深まっていない時点でそんなことが言えるのは、すごいことですよね(笑)。でも、何らかの明確な意図がなければ言えない言葉だとも思います。
芦田:そうなんですよ。最近になってようやく、その時の言葉の意味がわかってきました。僕は高校時代に陸上部で競技を始めていますが、全国大会へは進めませんでした。ところがその後、パラに転向してみたら、自己ベストにほど遠くてもあっさり日本一になれたことで、やりがいを失ってしまったんです。つまり僕は、健常者と障害者の間で孤立していたわけです。
乙武:健常者の競技ではトップにかなわず、かといって障害者の競技では飛び抜けすぎている。その宙ぶらりんな状況にあえいでいたんですね。
芦田:そうです。礒コーチはその孤立した状況について、「甘えている」と言っていたんです。最初から「健常者に勝ちたい」と思えていれば、決して孤立することはなかったはずですから。そう気づいたことで、完全にやる気スイッチが入りました。
乙武:こうなると、2020年の東京パラリンピックは芦田選手にとって通過点。いつか健常者と同じ大会に出場して、頂点を目指すという日を期待してしまいます。
芦田:ありがとうございます。頑張って結果を出したいです。
乙武:もしかすると、世間は結果が出なくても、その挑戦のプロセスをもって美談とするかもしれません。でも、芦田選手はそんなことは望んでないのでしょうね。
芦田:もちろんです。そこで美談の主役を演じるのではなく、きちんと敗因と向き合って、次への糧としなければなりません。そうしなければ、パラアスリートを取り巻く状況は何も変わりませんから。
乙武:拍手をもらうのは、結果が出たときでいいですよね。
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