外国人にモテる旅館が持つ、”上質な”習慣 延べ15万人を受け入れた、「澤の屋」の流儀
日本の下町風情が色濃く残る、東京・台東区谷中。ここに外国人観光客が集まる旅館がある。
「澤の屋旅館」が外国人観光客の取り込みを始めたのは、今から30年以上も前。これまで欧米を中心に100カ国、延べ15万人に及ぶ外国人旅行者を受け入れてきた。現在も宿泊客の9割は外国人だ。1泊5040円は、素泊まりとしてそれほど安い価格ではない。部屋も和室のみ12室、4畳半~8畳の広さだ。その旅館になぜ外国人が押し寄せるのか。
これでもか!というほどの「手作り感」
「楽しみながらやっているから、続けられるんでしょうね」。澤の屋を経営する澤功さんは笑いながらそう語る。
澤さんは旅館業界で知らぬ者はいないほどの有名人。観光庁が任命するビジットジャパン大使も務めている。ただ澤さんは実に素朴だ。話を聞くと、外国人客の受け入れが特別なものではないと思えてくる。
澤さんが宿泊客に必ず渡すものとして、手書きの地図がある。根津神社や上野公園など観光地のほかに、旅館周辺の居酒屋やラーメン屋、コンビニ、銀行ATMなどが日英表記で書き込まれている。地図は50部ずつ印刷し、追加の情報を上から張り付けてまた印刷する。
正月には門松を飾り、獅子舞を披露する。桃の節句には雛人形、端午の節句には5月人形、菖蒲湯でもてなす。宿泊客にそれらを知らせる館内掲示も、すべて手作り。日時だけを張り替え、あとは毎年同じものを使っている。
澤さんは旅館周辺での行事やイベントを報じる新聞記事を切り取って保管している。花火や朝顔市……。「昨年はこんな行事が行われたんですよ」。写真付きの切り抜きを見せれば、言葉で説明するよりも、外国人客にも伝わりやすい。澤さんのスクラップブックにはこれまでの旅館周辺の歴史がぎっしり詰まっている。
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