外国人にモテる旅館が持つ、”上質な”習慣 延べ15万人を受け入れた、「澤の屋」の流儀
家族経営は売り物になる
旅館は澤さんと妻、息子夫婦で切り盛りする。「大きくせずに、家族経営のままやっていこうと決めている」(澤さん)。そう考えたのは、澤さんがたまたま見たベネチアのホテルのパンフレットがきっかけだった。その表紙を飾っていたのは、ホテルを経営する家族の写真。欧米では日本とは違って、家族経営が売り物になっている。
家族経営は業容拡大には不向きだが、顔の見えるサービスができる。「いつも同じ顔ぶれだからいい」。そう言って澤の屋を再び訪れる外国人客は少なくない。今ではおよそ3割がリピーターだ。
澤さんのところには、宿泊した外国人客から手紙が届く。2011年の東日本大震災後には、澤さん、そして日本を案じる手紙やメールが多数きた。「家族はみんな無事か」「また必ず日本に来たい」。こうしたコミュニケーションが生まれるのも、顔が見える家族経営ならでは言えるかもしれない。
外国人客は、いいお客
澤の屋の帳簿は、来年4月まで多くの予約で埋まっている。外国人客は旅行の予定を立てるのが早い。ちまたで言われるように、目先の為替動向で予約がキャンセルされることはほとんどない。「旅館にとって、こんなにいい客はいない」(澤さん)。
これまで2001年の米国同時多発テロの後も、08年のリーマンショックの後も、宿泊客は減らなかった。唯一、11年の福島原発の事故後はキャンセルがあり、同年の宿泊稼働率は約75%まで減少したが、翌12年にはまた回復している。
ここにきて日本を訪れる外国人観光客は増えているが、澤の屋の中心客である欧米やオセアニアからの訪日客は12年で約190万人と、10年前とほとんど変わっていない。欧米からは年約4億人が海外旅行に行くと言われており、そのうち日本に来るのはたった0.5%にすぎないのだ。
澤さんはほかの旅館にも、外国人客をもっと積極的に取り込もうと呼びかける。「外に目を向ければ、まだまだ拡大の余地がある」(澤さん)。
ネットによって、世界各国から直接予約が入る。そして何も特別なことは必要ない。あくまで自然体で。それだけで多くの外国人客を呼ぶことが可能であると、澤さんのこれまでの足取りが物語っている。
※『週刊東洋経済』10月19日号の巻頭特集は「おもてなしで稼ぐ」。東京五輪まで約7年、日本が観光立国となるための方法や課題について、豊富なケーススタディや地域の取り組みを通して紹介しています。
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