外国人にモテる旅館が持つ、”上質な”習慣 延べ15万人を受け入れた、「澤の屋」の流儀

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英語は片言でオッケー

澤の屋は”ハイテク”なサービスを否定しているわけではない。かつて、外国人客を受け入れるにあたっては、予定どおり宿泊してくれるか、支払いが保証されるかという心配があった。そのため、澤さんは1985年に旅館でいち早くギャランティ・リザベーションを導入した。これは、予約・支払いは原則クレジットカードとして、不泊の場合、カード会社に一泊分の料金を請求できるという仕組み。これにより不泊のリスクを軽減した。

業界で知らぬ人はいない有名人、 澤の屋を経営する澤功さん

また澤の屋の門限は夜11時だが、帰りが遅くなる客には、旅館の玄関の鍵を渡し、自分で開けて入ってもらうという工夫も。澤の屋ではこの鍵をナイトキーと呼ぶ。

とはいえ、澤さんには何か特別なことをしているという意識はない。たとえば語学。英語は片言、いわゆる英単語のみ。それでも宿泊客からクレームが入ることはほとんどない。

かつては連泊するお客に富士山の絵の入ったふきんをプレゼントしていたが、それもやめた。100カ国もの客が喜ぶサービスなどないからだ。

「今あるものを変える必要はない。そのままで迎え入れればいい」。澤さんは、驚くほど自然体なのだ。外国人客だから特別なサービスが必要なわけではない。「お客さんから要望があれば、やれることをやる」(同)。

澤さんはデータ魔。ただし、集計は「正の字」でと、いたってやり方はシンプル

澤の屋では外国人客からの要望で、敷布団を1枚から2枚にした。洗面所の固形石けんは泡石けんに変えた。しかしあくまでベースにあるのは、自然なおもてなしだ。

ちなみに元銀行員である澤さんは、自他共に認めるデータ魔だ。5年に1回のペースで外国人宿泊客に大掛かりなアンケートを実施。日常的にも宿泊者のデータなどを丹念に集めている。これも手作業が中心。澤さんの帳簿にはいくつもの「正の字」が並んでいる。澤さん自身も、そうした地道な作業を楽しんでいるようだ。

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