60歳手前で「発達障害」と気づいた人の処世術 雇う側と雇われる側、それぞれの覚悟

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発達障害の人にとっては、口頭での指示はとてもわかりづらいという。言葉として入ってきているだけで、実際に動くためには頭の中で違うものに置き換えなければならない。話で聞いたときはわかっても、いざ行動となったときにそれが抜けてどこかへ行ってしまうのだ。

仕事の指示に関しては、ホワイトボードなどを使って、その日にするべき優先順位などは図を取り入れて、視覚的に説明すると効果がある。余計な感情をカットし、書くことにするだけで、解決することが多いのだ。

仕事のパフォーマンスの質を高めるために

プラスハーティは企業としての具体的な対策として、清掃スタッフで発達障害を含む知的障害のある社員には、仕事のパフォーマンスの質を高めるために「公文式学習」の国語と数学を毎日1時間(各教科30分)取り入れている。この学習は個人個人でできるところから始めるドリル形式の学習で、これを決められた場所・時刻に行うことで、規律正しい社会生活を送るために役立つと考え、実施している。特例子会社だからこそできる、基礎学力が乏しい障害者に対する支援とも言える。

「リハビリ効果を期待して始めたのが最初ですが、特に知的障害者は『急激退行』といって突然老化することがあるそうで、長く働いてもらうために始めました。国語では『論語』、算数では九九の音読を行うとともに、プリント教材も使っています。これにより読み書きと計算という基本能力が得られるだけではなく、言葉でのコミュニケーションの面でも向上が見られています。同時に指導員の成長も著しかったのです」(岡本氏)

また、体を動かすとことを考え、ヨガなども取り入れている。

「会社は安全と衛生を考えなければなりません。安全を考えたとき、転倒のリスクを減らしたいと考え、ラジオ体操ではない、専用の体操を作ってもらおうと思ったのですが、あるときヨガを取り入れればストレスケアにも効くし、補えるものがもっとあると教えていただきました。日々の作業が長年続けられる無理のない動作になっているか、ということを監修してもらう意味でも取り入れています」(岡本氏)

取材をしていると、障害者雇用に関しては、まずはその会社に合った土台となるストーリーを作っていくことが大事だと感じる。「多様性」は、広義でいうと障害者雇用もその中に含まれる。企業の経営者が本気になって「やるぞ!」と言わないと「自分たちはいいことをしている」とか、「道徳的なことをしているんだから」という精神論とか、CSR(企業の社会的責任)で終わってしまう。 

一般的なサラリーマンであれば、上司に認められることが出世のための正しい行動だと考える。しかし、発達障害者はそういった行動が苦手だ。たとえ「傑出した特性」を持っていたとしても、組織の中でその強みを発揮することは容易ではない。企業は発達障害の特性を理解し、うまく取り入れながら利益を生み出す体制づくりが求められているのではないだろうか。

草薙 厚子 ジャーナリスト・ノンフィクション作家

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くさなぎ あつこ / Atsuko Kusanagi

元法務省東京少年鑑別所法務教官。日本発達障害支援システム学会員。地方局アナウンサーを経て、通信社ブルームバーグL.P.に入社。テレビ部門でアンカー、ファイナンシャル・ニュース・デスクを務める。その後、フリーランスとして独立。現在は、社会問題、事件、ライフスタイル、介護問題、医療等の幅広いジャンルの記事を執筆。そのほか、講演活動やテレビ番組のコメンテーターとしても幅広く活躍中。著書に『少年A 矯正2500日全記録』『子どもが壊れる家』(ともに文藝春秋)、『本当は怖い不妊治療』(SB新書)などがある。

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