60歳手前で「発達障害」と気づいた人の処世術 雇う側と雇われる側、それぞれの覚悟

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プラスハーティ業務運営部主査の金山俊男さん(59)は、障害者雇用や育成に携わる中、60歳を目前にして自身が発達障害の「アスペルガー症候群」と軽度の「ADHD」であることがわかったという経験を持つ。60歳手前になって、これまで抱えていた違和感の理由がわかったとのことだ。金山さんは、重度身体障害でもある。

アスペルガー症候群は「社会的なやり取りの障害」や「コミュニケーションの障害」「こだわり行動」の3つの特性があるものの、知的な遅れがなく対人関係の障害が比較的軽度な状態。また、ADHDは「注意欠如多動性障害」で、「不注意」「多動性(落ち着きがない)」「衝動性(よく考えずに行動する)」という特性を持つ発達障害だ。

もめ事には近づかない

「会社では目の前で起きている騒ぎを拡大しないよう、もめ事には近づかないようにしています。ただでさえ普段の自分の行動によって大なり小なりいろいろなもめ事を起こすのはわかっていますから、できるかぎり余計なことはしません。人との距離がわからないので、自分の中でヒエラルキーを作っておいて、この人にはこれしか言わない、このレベルの人ならここまではいいとか、そういうものを作って、それに合わせて行動していると自分の中でも穏やかでいられます。

定型発達者同士だったら理解できるんでしょうけれども、男同士でも女同士でも、どうしてあれで会話が成立するのかがわからないという場面に遭遇することが多くあります。ヒエラルキーが作れない状況では、人に何をどこまで話したらいいかわからないので、いきなりプライベートなことを相談して相手を困惑させたり、その後、忌避された経験があります。見極めが困難なことから人に相談することはやめました。これも人との距離感がわからないことに起因するのでしょうね」

金山さんの場合、業務運営部において品質管理担当の主査という立場にあり、管理職として職場を見渡している。一方、障害者としての特性を持っているため、会社側と現場で働く障害者という、両方の立場から考えることができる。相手と話す際には自分の中でパターンを作り上げていて、「相手からあるサインが出たらもうそこでストップ」という決め事をしているという。

「サインはケース・バイ・ケースなんですけども、ひとつは顔の動きです。表情ってあまり気がつかないのですが、私の場合は相手の目の開き方です。目の開き方が細くなってくると、あ、しゃべりすぎているなと判断します。今はよくしゃべっていますけど、それ以外のときは3行までと決めています。それ以上のことはしゃべらないですね」(金山氏)

最近、発達障害はこう接すればいい、といったようなマニュアル本が出ている。しかし、彼らにとってみると、そのとおりにやってもうまくいかなかったから、別の処世術に向かっているというのが本音のようだ。

「そのとおりにできないから、発達障害なんです。まねしようとして、あー、なんでできないんだろうって思うんだったら、見ないほうがいいわけですよ。知識として知っているには問題ないのですが、まねしようとするとキツいです。勝手にアスペルガー三段論法と名付けていますが、『1、マニュアルどおりできないのはダメなヤツ』→『2、僕はマニュアルどおりできない』→『3、僕はダメなヤツ』となって自己肯定感が一気に下がります。1つの成功体験を全員にあてはめて普遍化するのは難しいと思います。それぞれ違いますから」(金山氏)

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